今年の読書(106)『おにのさうし』夢枕獏(文春文庫)
Jul
30
第一話は、文徳天皇の后である「染殿后」こと<藤原明子(あきらけいこ)>を据えて、一種の鬱病に罹っていたらしく「物の怪」に悩まされていたという『今昔物語集』に見られる記述に、「鬼」と化した<真済聖人>を絡めています。
第二話は、<三善清行>や<紀長谷雄>との確執を描きながら、絵巻物『長谷雄草紙』をベースに「鬼」との双六勝負で手に入れた絶世の美女との結末が面白く描かれています。
第三話は、<小野篁>を主人公として『宇治拾遺物語』に出てくる嵯峨天皇との書にまつわる話題を散りばめながら、完全にフィクションですが『篁物語』として残る異母妹との悲恋を描き、「百鬼夜行」まで飛び出してきます。
どの短篇も史実的な裏付けを絡めながら、著者独特の世界が楽しめる作品ばかりでした。