今年の読書(54)『いのちの姿 完全版』宮本輝(集英社文庫)
Nov
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著者が人生の折々に巡り合った忘れ得ぬ人々の面影が、円熟した筆致で描かれています。
いままで語られることの無かった異父兄との邂逅を描く「兄」、シルクロードへの旅にまつわる回想「星雲」、小説『優駿』執筆当時の不思議な経験を描く「殺し馬券」、子供のころ遊んだ奇妙なアパートを部隊とした「トンネル長屋」、ある老人の死に黙考する「消滅せず」など、単行本刊行後の5編が加えられ「完全版」として、滋味あふれる全14編が収録されています。
あとがきに、「私はある時期からエッセイを書くことをやめていた。懇意な編集者の熱心な依頼であっても、平謝りしてお断りさせていただいてきた。小説に専念したかったからだ」との宮本さんの言葉があります。そんな著者が今回あえて筆を執り、満を持して書かれた、大人のための随筆です。