1975(昭和50)年、「二千万テレビ懸賞小説」佳作入選作品『雪の断章』でデビューした著者は、2005(平成17)年12月25日に56歳で亡くなられています。
1984(昭和59)年以降からは作品を発表されておらず、発表された全18作品は長いあいだ絶版状態でしたが、2006年から次々と復刊され、本書は『罪灯』(2009年11月)と共に初の文庫化作品で、刊行が著者の命日の12月25日付です。
本書には短篇4篇が連作として納められており、精神科医の<吹原>医師の助手である女性の<私>の視点から、患者の様子が語られていきます。
自己顕示欲、虚栄心、嫉妬心等が渦巻く20代前半の女性の心理状態を、<吹原>は地道な対話と身辺調査で彼女たちの日常に潜む無意識の精神状態を分析していきます。
犯罪者に対して法の下に裁く前に、まずは人間としての精神状況を探ろうとする<吹原>の真摯な態度に、共感を覚える一冊でした。
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