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今年は山岳小説として、<湊かなえ>の 『山女日記』 がありましたが、やはり<笹本稜平>がこの分野の第一人者だと言わざるを得ない骨太の内容でした。
大学山岳部に所属していたころは、一目を置かれるクライマーでありながら、日本の山岳界の体質に合わず、マッキンリーに渡り、現地ガイドとして活躍していた<津田悟>が、単独登頂で消息を絶ったと、身重の妻<祥l子>からの連絡を受けた、<吉沢>は、現地捜索隊に加わり、救出のため冬のマッキンリーに向かいます。
学生時代からパーティー組んでエベレスト登頂を成功させた<吉沢>ですが、マッッキンリーでのホテル建設計画も順調に進み、子供にも恵まれながら、なぜ無謀ともいえる単独登頂に向かったのかの疑問を投げかけながらの探索は、迫力に満ちていました。
当事者<津田>の回想を織り込みながら、「登山」の世界の奥深さを読者に丁寧に描き出す構成は、リアル感あふれ、564ページ最後まで緊張感を忘れさせません。
親の残した建物を民家風の喫茶店と陶器などの小物を展示即売する「小蔵屋」の76歳のオーナー<杉浦草>を主人公に据えた「紅雲町珈琲屋このみ」シリーズも、 『萩をぬらす雨』 を第一作目として、『名もなき花の』 に次いで本書で、四作目になりました。
当初は、身近な事件を解決する短篇集でしたので、「おばあちゃん探偵」の登場かなとみていたのですが、<草>のほのぼのとした人情味に魅かれ読み継いできています。
今回は、大事にしている備前焼の皿の箱紐が切れたことにより、真田紐を買い求めて商店街、通称「ヤナギ」に出向いたところから、物語は始まります。
「ヤナギ」は、数軒しかない小さな商店街ですが新鋭女性建築家<弓削真澄>が、改装工事の設計を進めていますが、世界的な陶芸家の作品が絡んで、<草>は隠された紅雲町の歴史と人間関係に触れ合うことになります。
タイトルもそうですが、いつもながら陶器に対する<草>の愛情がよく描かれており、ほのぼのとした思いを読者に残しながら、さりげなく<草>の日常に戻り、建築家に対する目線も鮮やかで、楽しみながら読み終えました。
同じ著者のシリーズとして、「耳袋秘帖」は、今のところ 『馬喰町妖獣殺人事件』 が最後ですが、順次楽しく読み続けています。
本書の副題は<新若さま同心 徳川竜之介>で、すでに13作品が刊行されており、<新>シリーズとしては、4作目に当たります。
舞台は江戸時代末期、田安徳川家の十一男の<竜英>は、南町奉行の同心になりたくて、名前を<福川竜之介>と変えて、市井の事件を解決していきます。
本書では、<南蛮小僧>と称する怪盗が幕府の隠し財産を狙う企みを未然に防ぎます。
江戸末期の時代設定ですので、蒸気機関車や熱気球・バーボンなどが伏線として登場してくるのは、ご愛嬌かな。
著者の作品としては、『星々たち』と読み、気になる作家の一人として、本書を手に取りました。
遺体を風にさらし風化させる葬制が「風葬」ですが、一読して、タイトルと内容が素直に結びつきませんでした。
冒頭、新しく赴任した中学校の入学式に欠席した生徒<佐々木彩子>の家を訪問する担任の描写から始まりますが、のちの伏線として教師名が明かされてはいません。
書道教室をいとなんでいる<篠塚夏記>は、認知症の傾向がある母<春江>がつぶやく「ルイカミサキ」という地名が気になり、自分の出生と関連しているのではないかと感じとります。ある日新聞の短歌欄で「涙香岬」という言葉を見つけ、作者<沢井徳一>に連絡を取ります。
<徳一>は、快く<夏記>を現地に案内しますが、<夏記>に、<彩子>の面影をみいだします。<徳一>こそが、入学式当日に家庭訪問をした教師でした。
ソ連の拿捕事件、ソ連マフィアとの絡み、港町の遊郭など、北海道ならではの社会背景と昭和の時代背景を含ませながら、登場するそれぞれの親子関係が複雑に絡ませた秀逸な物語でした。
南町奉行の、根岸肥前守>を主人公とする「耳袋秘帖」の殺人シリーズも、第一巻の 『赤鬼奉行根岸肥前』 から始まり、本書で第16弾目になります。
訴訟で江戸にやってくる者たちが泊まる(公事館)がひしめく日本橋馬喰町を舞台としています。
<根岸>が評定を始めると、なんと白洲の場にて、訴訟の代理人である公事師が突然獣に食いつかれたような傷を残し死んでしまいます。
馬喰町には、妖獣「マミ」が出たという話をはじめ短期間の間に「七不思議」が流布、<根岸>は、何か隠されたウラがあると睨み、部下の<坂巻>と同心の<栗田>に噂の元を調べさせます。
大泥棒「暁星右衛門」に絡む悪だくみを未然に防ぐ<根岸>ですが、文末に人情家らしく<おたえ>に対する処遇が、心温まりました。
毒ガスを使用した、クーデターは未遂のまま終わりましたが、毒ガス背造者の<松島>は、その後塾を経営、教え子の<天野>にクーデターの思想を受け継がせます。
<天野>は、<国重>が考えていた日本の国体として、議員を総辞職させ、官僚主体の国家にすべく、SNSを駆使して実際に毒ガスを発生させ、捜査一課特殊犯の刑事<峰脇>たちを翻弄させていきます。
50年前に企てられたクーデタ-が、現在に甦り、<峰脇>の過去ともリンクしながら、事件は終結に向かいます。
群馬県前橋市で、異臭騒ぎが起こり、50人を超える被害者が発生。原因を確かめる中で、ガスを発せさせたと思しき魔法瓶が置かれた場所の廃屋の化学工場の跡地から50年前の白骨死体が発見されます。
場面は、昭和30年代初頭、安保後の高度成長期に替わり、現状の国体に憂いを持つ満州からの引揚者<国重>が主催するクーデター団体<七の会>の流れに変わり、サンドウスルメンバーの<松島>は、毒ガス開発に力を注ぐとともに、クーデター決行に強い意欲をもっていました。
主宰者の<国重>は、<松島>の行動を危惧して、毒ガスを隠す裏工作を行い、クーデターを中止へと導きます。
閉鎖的な住民からの情報に期待できない中、<荒巻>は、ある炭鉱夫から、事件は、満月の夜に起こり、髪の毛が切られていなかったかと問われます。
この炭鉱夫は、元東京の刑事で、犯人を長年追い求めていました。<荒巻>がかくにんしますと、確かに少女の髪の毛が切られてていたことを、事故の処理をした看護婦から聞き出し、8年前にも似た事件があったことを調べ出します。
先輩駐在員<岩本>の冷たい眼差しのなか、事件当時に島に住んでいた住民情報を集めながら、<荒巻>の奮闘が続きます。
昭和34年を背景として、一企業に癒着した社会に臨んでいく若き巡査の執念が光り、読み応えのある骨太の (上) ・ (下) 巻の構成でした。
背k師遺産にもなりました通称「軍艦島」を舞台にしています。「軍艦島」を舞台にした小説は、<恩田陸>の 『pazzle パズル』 や<貴志祐介の 『ダークゾーン』 などがあり、高密度な「軍艦島」の廃墟をうまく利用していました。
ある料亭で、一人の警察官<荒巻>の退職祝いが行われていましたが、彼が若い頃に出向いた軍艦島での駐在員としての話しが語られていきます。
閉鎖的な島には、5千人の居住者が住んでいて、役職や所属に応じて、それなりに住み分けが行われていました。
ある日、中学2年の少女の水死体が発見され、<荒巻>は少女の事故死に疑いを持ち、独自に調査を進めますが、先輩の巡査長は、単なる事故死で処理しようと相手にしてくれません。
閉鎖的な階級社会の中で、捜査は、遅々と進みません。
警視庁捜査一課の敏腕刑事だった<江波淳史>警部補は、取り調べ中に容疑者が自殺したことにより、青海警察署の水根駐在所へと左遷されてきます。奥多摩での駐在所生活を描いたのが、第一作目の 『駐在刑事』 でした。
奥多摩で、旅館の跡取り息子<孝夫>や図書館の司書<遼子>との交際を通じて、穏やかな環境で、自分自身を取り戻していました。
そんな折、御膳山でいなくなったペットの犬の探索中、何者かが仕掛けた罠を発見。隣県では、殺人事件が発生しており、怪しい人物も目撃されており<江波>は、相棒犬<プール>と調査に乗り出します。
今年は、「山ガール」を主題にした<湊かなえ>の 『山女日記』 を読みましたが、
著者には、『未踏峰』 や 『偽りの血』 など骨太の山岳小説の素地があるだけに、山の描写は、安心して読めます。
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