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詩は元気です ☆ 齋藤純二

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なぜか犬猫に好かれる

thread
なぜか犬猫に好かれる


昔から犬猫になぜか好かれる
だから膝の上に猫をのせていると
なんで、お父さんばっかり
と、家族にやきもちを焼かれてしまう

学生の頃
学童保育でバイトをしていた時
今日は団地の学童へ行ってください
と、言われ初めてそこへ向かった
建物の横には鎖に繋がれた犬がいて
近寄ると懐いてくれて
撫でると気持ち良さそうにしていた

すると、部屋の中から
学童保育の先生が出てきて
あらっ、驚いた
ケンが吠えないなんて初めて
そんなこともあるのね
と、言われたこともあった
確かに配達のおじさんには
メチャクチャ吠えていた

十五年飼っていた犬とも
いつも同じ部屋で寝ていたし
その前にいた猫も
私のそばにいることが多かった

ひとにはそんなに
好かれた記憶がないが
どうも犬猫には好かれるみたいだ

私の何が犬猫に好かれるのだろう
言葉にしてくれたら
きっと新しい発見があるだろうけど
知らないほうが良いのかもしれない

体臭が好まれるとか
聞かないほうが良いことかもしれない

そして、今も猫二匹が
私に纏わりつき
気持ち良さそう寝ているのだから
こりゃこりゃ、幸せなことだなあ
と、この詩を書いている

#詩

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暗い朝から

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夜が明ける前の静けさ
新鮮すぎて怖い空気の中
子どもだった私は親に連れられ
上野駅へ向かう
夏休みになると列車に乗り
母の実家
山形に行くのである

とくに嬉しい気持ちもなく
上野駅のホームにしゃがみ込み
自由席の列に並ぶ

ドアが開けば走って
座席を陣取る
それは子どもらの役目だった

向かい合わせの座席
床に新聞紙をひいて
そこに兄と横になってひと眠り

この先の長い長い旅路
移り変わる景色にも飽きて
駅弁を食べてしまえば
時間が重く退屈だけが遊ぶ


夜が明ける前
今は冬だというのに
あの頃のことを想い出している

静けさの中にある
恐縮した心持ちの器には
自分の足音がカツンカツンと
決められた日程だけ
響いていた

#詩

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不壊ひとり

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冷たきの
冷たき無くし
ひとひとり

忘らるる
ことさえ無くし
いざ行かん

冷たきの
冷たき無くし
ひとひとり

#詩

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奪われたい時間

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今宵は映画
布団へ入りタブレットを横に

気分にあったストーリーのものを選ぶ
これにしようか、いやこっちにしようか
満足できそうな時間や充実を探す

二本の邦画
とくに派手な場面もなく
どこにでもありそうな日常
誰にでもある感情を俳優が表現
地味な喜怒哀楽

時間と場所とひとが重なる
感じたことのある空気を感じ
言葉にならない感情を楽しみ
ゆっくりと流れていった

あのひとは何を考え
何を思っているのだろう
自分の中にもある他人の自分
入ったり抜けたりする映像

どんな映画を見たんだい?

そう言われて困るような
映画を二本

記憶からすぐに消えそうな
それでいて満足を得た映画を

#詩

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玉(ぎょく)ください

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若き頃
浅草の知らぬ寿司屋に入った
カウンターに座り玉子焼きの握りを頼む

玉(ぎょく・出汁と魚のすり身が入っている)ください

へい、お待ち

かなり厚めの玉子焼きだった
んん、美味しくて安い
また玉子焼きの握りを頼む

へい、お待ち

んん、美味しい
玉ください

へい、お待ち

そして、また玉子焼きを頼もうとした時
板さんがしびれを切らしたのか

こちらに新鮮なネタがありますよ

ネタケースを指さし言った

でも、なんだか高そうだな
俺は玉子焼きの握りを十貫ぐらい食べて
この店を出ようとしていた
なんせ玉子焼きが好きなんだ

まあ、でも板さんの顔をたてて
ひとつ刺身を握ってもらうか
ブリだかハマチだかわからなかったので

これっ、ください

そう言うと板さんが

あいよ、ガァ〜ラスね

じゃあ、そのガァ〜ラス

お客さん、ガラスは握れませんよ

ネタケースのガラスをガァ〜ラス
とか言って、冗談をかましてきた
これがまさにネタケースのネタだ

おっと、完全に舐められている
俺が若造で玉子焼きしか頼まないからだ
いやいや、それでも客だぞ

そんなわけでまた玉子焼きを頼む
すると板さんが

このお客さんに上がり一丁

と、もうひとりの板さんに言う

おいおい、俺は玉子焼きを頼んだのに
そんな隠語を使うなよっ、たくっ

上がりじゃねえよ
玉だよ

お客さん、もうおあいそなしでいいから
出て行ってくれ

きたっ、完全にケンカを売られている
けど、そこに俺はまったくプライドはない

そう、じゃあご馳走さん
明日、また玉を食べにくるから

あれれっ、毎度ありなしかよ



そして次の日、また暖簾をくぐる

玉を握ってくれ

あいよっ
お客さんには負けましたよ

へいっ、お待ち

#詩

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水を飲む

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水の飲み方も忘れてしまったのだろうか
気管の方へ流れ込んではむせる
ごほんっ、とすれば喉に
暫くは違和感が続く
年齢的なものだろうか
頚椎を手術したからだろうか
よくわからないが
水が上手く飲めないっていうのは
とても笑い流せることではない

今まで出来ていたことが出来なくなる
確実に降っていることを認識
人間は口から食べれなくなれば
やはり身体は衰えてくる

最近はむせることが多くなった

入院患者が誤嚥性肺炎を起こすように
自分の良くない映像を回してしまう
水を飲むのも怖くなる

こんな筈ではない身体になっていく
これも私にとっては自然なこととして
もう諦めた方がよいみたいだ
それなら慎重に水を飲むだけのことさ

今までとは違う水の飲み方
水の量や温度
喉の角度
精神の緊張度やリラックス感
個人的な生きてゆく知恵を使い
水の飲み方を考えてゆこう

全身に潤う水に対して有り難みをもち
水を飲む時には集中し
上手く飲めた幸せを知り
胸に手をあてて生きてゆこう

#詩

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貧困はすでに他人事ではない

thread
自分の老後なんて考えていられない
子どもらを一人前にするまでは
何がなんでも身を粉にして
我武者羅に進んでいかなければ

日本の家庭で
学業に関わる費用は莫大だ
どうしてこんなに高額なんだろう

親が働き
子どももアルバイトして
それでも学費が払えず
高校や大学を中退する学生が
増えているということだ
奨学金もさほど期待できず
就職後に返済が十年以上も待っている

もはや
日本の子どもの貧困は六人に一人
学校に行けなかったり
学校に行けたとしても
修学旅行などが行けなかったり
学費が納められず
卒業証書がもらえなかったり

だから
親が自分の老後なんて
考えている余地などない
貧困はどうにか我が未来へ
先送りするために
組めるローンは惜しみなく
あの手この手で進むだけだ


はて
この捨て身でどうにかなるのだろうか?

#詩

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バス停での超越

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ネオンの真ん中
疎らな時刻表の数字
冷たいベンチ

指先、足先から凍る
もう痛みなどない
精神が身体の嘆きを消した

今この時
朽ちる全てを許容
終わるものなら
終わってみやがれ

だからって
俺は死にたい訳でもない
生にしがみつく訳でもなく
違う次元に入り込んだ

そこには超越感

しかし
まだ無の一歩手前に座っている
この寒さでは
俺を心身ともに
凍らすことはできない
やはり時化た屑な時間

とっても残念だ
そこまでか、お前の冬の力は

ああ、もうバスが来ちまったぜ

#詩

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心配という種は土に植え

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正月早々
母は心配ごとばかり語る
心配してもしょうがないことに
心を振り回されて

とくに歳をとったからではなく
昔からそうだ

そんなことで

なんて俺も言えないのだ
心配している自分までも
心配するような
心配遺伝を受け継いでいるのだから

でも新年になってわかったこと

俺の心配は続くのに
母の心配ごとには大丈夫だよ
そう言えるのだから
俺の心配ごとだって大丈夫なんだ

そんな風に開き直れる心配の種から
芽がにょきにょきと出てきたようだ

突然変異の日が昇り
胸を張りながら背を高くする

#詩

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平らな声

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夢の島を引きずる今日
ひとつ波が過ぎれば東京
海の緑は眩しかった

まばらな光
棒グラフのビルに遮られ
心の何処かで平らに憧れている

得体の知れないプレッシャー
社会への弱気を生み出す電車の揺れ

思い出すように何度も繰り返す思考
どうして生きているのだろう
どうせ死ぬのに

確かに夢の島では
時間を遮られない声が聞こえていた

僕は長い間
この東京で何を聞いてきたのだろう

眉間から聞こえる声
舌から聞こえる声
音のない声

どうしたらここで
平らな声が聞こえるのだろう

どうしたらここで
平らに生きてゆけるのだろう

#詩

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