今年の読書(67)『薔薇窓の闇(下)』帚木蓬生(集英社文庫)
Dec
9
精神科医<ラグーゼ>は、<音奴>を、自分が下宿している家主が営んでいる食堂に勤めさせることにより、心を開くようになっていきます。どうやら万博への芸人一座の一人としてパリを訪れ、金銭に困った座長に売り飛ばされた屋敷から逃げ出してきた境遇が判明します。
連続失踪事件を追うパリ警視庁警視の妹<ラボリ>が、百貨店にて射殺されてしまうのですが、彼女は<ラグーゼ>とオペラ見学をした相手で、犯人は伯未亡人の使用人たちでした。
<音奴>は、<ラグーゼ>の部屋に飾ってあった写真の中に自分を買って監禁していた人物がいることにきづき、写真を趣味とする<ラグーゼ>はその人物の被写体の好みから、連続失踪事件に関連しているのではないかと疑い始めます。
1900年当時の精神科の状況、華やかなパリ万博時代のち密な街並の描写、日本文化に傾倒している<ラグーゼ>の理解、医者として娼婦館に通いながらも、娼婦に対する優しさなどをはめこみながら、スリリングな構成と暗い重たい内容だっただけにいい結末で終わり、ほっとさせられる作品でした。