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関西で名門のバーと言えば今年創業100年を迎える「サンボア」です。1918年の発祥で大阪には8軒、京都には3軒。最近では東京にも3軒。全国で14軒もあります。
本書『バー「サンボア」の百年』は改めて1世紀の歴史を振り返り、創業以来の精神を後世に伝えようという構成です
日本のバーの老舗としては東京・浅草の「神谷バー」が有名です。こちらは銘酒店として1880年4月に創業し1912年に店舗内部を西洋風にして屋号を「神谷バー」と改め、今も大正時代に建てられた建物で営業しています。
その「神谷バー」に匹敵する歴史を誇るのが「サンボア」です。「神谷バー」が、安価な酒「電気ブラン」で知られ、非常に大衆的で、どちらかと言えばビアホールに近いのに対し、「サンボア」は正統的、伝統的なバーのたたずまいです。
本書はサンボア創業、戦後の再出発、サンボアのDNAの三章に分かれて書かれています。現在は創業者<岡西繁一>から直接暖簾を継いだ3つの家系の3代目と、サンボアで修業した計12名のマスターが「サンボア」を名乗り、14店の「サンボア」を営んでいるという。それぞれのサンボアの歴史、店を立ち上げ、背負ったマスターたちの思いなどが紹介しています。
驚くのは、年表や系図はもちろん、主要人物の一覧表が付いていること。サンボアの歴史を形作った24人の経歴が並び、伝統と真髄を維持してきたのはサンボアだという自負があふれている構成です。
<紅雲町珈琲屋こよみ>シリーズとして、第1作の 『萩を揺らす雨』 に始まり、第4作の 『糸切り』 に次いで第5作目が本書です。
生まれ故郷の紅雲町にて、両親の家を改造して珈琲店「小蔵屋」を営んでいる76歳の<杉浦草>ですが、夏祭りに使う山車の保管場所を巡り、20年前の出来事が絡みひと騒動が起こります。
以前からの約束で、いずれ「小蔵屋」を年齢的にも閉鎖するときには山車の保管場所として「小蔵屋」のチュウシャスペースを使うことに同意していた<草>ですが、急に今の保管場所を移転せざる状況になり、<草>は代替えの敷地を考えますが、そこは、<草>の母<端>が、20年前になからがいした鰻屋の<小川清子>のむかえになります。
そこでは20年前に一人の男が失踪した事件があり、持ち前の好奇心で<草>は、亡き母の思いを抱きながら町内の昔の出来事を探り出すことになります。
2010年7月に刊行された 『アナザフェイス』 を一巻目とする「アナザフェイス」シリーズも、前作の 『潜る女』 に次ぎ本書の『闇の叫び』でもって完結となります。
主人公<大友鉄>は、妻を交通事故で亡くし、一人息子<優斗>のために捜査一課から残業のない総務課に自ら転属、彼を一課に復帰させようとする上司の後ろ盾で、難事件の担当に引きずり込まれていきます。
<優斗>の小学生時代の同級生の母親から、娘が通う茗荷中学校の親が何者かに襲われる事件が発生しているとの連絡を受けた<大友>は、軽い気持ちで事実関係を調べますが、第2の犯行が起こり亡くなり殺人事件の捜査となります。<大友>は、事件の発生した文京中央署に派遣されます。
捜査の過程で10年前にも似た襲撃事件が発生しており、その時の容疑者が茗荷中学校の教師として転勤している事実を掴みます。生徒の面倒見の良い教師<安田>の身辺調査を進めるなか、彼の複雑な家庭環境が浮き彫りにされていきます。
<優斗>も高校受験を迎える年齢になり、独り立ちの気配の中。<大友>はかっての一課の同僚<柴克志>や<高畑敦美>と犯人を追いつめていきます。
「アナザーフェイス」シリーズは本書で完結ですが、捜査一課に復帰した<大友鉄>の活躍が、今後読めるかなと期待しています。
解説文を含めて665ページの長編ですが、<海堂尊>ファンであり、既刊の 『ナニワ・モンスター』 を読んだことのある人だけに、本書をお勧めします。
冒頭は、金沢市を連想させる加賀市にある養鶏所「ナナミエッグ」を舞台として、一人娘の<名波まどか>を主人公として、現在の養鶏所の状況から、インフルエンザワクチンの問題点につなげ、『ナニワ・モンスたー』のワクチン騒動に絡めて話が進んでいきます。
奔走するのは、霞が関の陰謀を未然に防ぐべき異端の医師である「スカラムーシュ」(大ぼら吹き)こと<彦根新吾>です。
<彦根>は、ナニワ府知事<村雨弘毅>の提唱する日本からの独立を後押しすべく資金調達にヨーロッパ各地を駆けずり回ります。
対政府側は検察庁を窓口として、彼らの独立を阻止すべく対抗策を繰り出していきますが、さて結末は。読み切ったものだけの楽しみです。
山間の盆地にある小さな町のパン屋に生まれた<絵美>という文学好きの少女が、はじめの物語の主人公。年上の<ハム>さんという少年にプロポーズされる。彼は、北海道大学に進学し遠距離恋愛が始まる。やがて<ハム>さんは町に戻り、高校教師となり、正式に結婚を申し込む。しかし、作家になりたいという夢をもつ<絵美>は東京に行こうと駅に行く。すると、そこには<ハム>さんがいた。ここで物語は終わります。
そこからは別の章となり、それぞれ別の主人公が登場する。妊娠三カ月でがんが発覚し、子どもをあきらめて手術をするかどうか悩む<智子>。実家の工場を継ぐことを迫られ、プロのカメラマンになる夢をあきらめようとする<拓真>。志望した会社に内定が決まったが、才能に自信が持てずにいる<綾子>。夢に向かってアメリカ行きを切望する娘に反対する<大水>。夢を追う人と別れ、仕事一筋に證券会社で働いてきた<あかね>。迷いを抱えた人々が向かった先は北海道だった。彼らは「空の彼方」と題した小説のコピーをそれぞれ手渡され、読んで、その後の生き方の参考にする。「空の彼方」は、<絵美>と<ハム>さんの物語でした。
そういう構成の作品だから、予想通り、最後の章は冒頭の章の続きでした。あらすじを明かすわけにはいきませんが、結びに出てくる「北国の夏の夕方の空」のようなさわやかなラストでした。
文学好きの絵美の造形には、広島の因島で育ち、空想好きで推理小説を読みふけったという著者の少女時代が反映されている。<湊かなえ>さんの「自伝」的要素がにじんだ作品でした。
元女性タレントの<宮原千寿>が白骨死体で発見され、<山下貴一>が自首してきます。殺害現場で発見されたDNA型が<山下>と一致、捜査本部は起訴間違いなしとみていましたが、捜査一課の<飯綱和也>警部補は、状況から疑問に感じ異を唱えますが、神田署に飛ばされてしまいます。
神田署に赴任草々、車から飛び出した少年が後続の車に跳ねられる事故が起こり、少年は飛び出した車に乗っていた人物たちに連れ去られてしまいます。
不審に感じた<飯綱>は、サクラ・ウェルネスという遺伝子組み換えを主とする企業にたどり着き、行方不明だった少年を発見、病院に入院させますが、拉致されてしまいます。
驚くべきことに、殺人事件の<山下>と少年のDNA型が一致するということがわかります。
操作の要であるDNA鑑定にクローン人間・デザイナーベイビー問題をからめ、ヨミヅナこと<飯綱>の「筋読み」が冴える一冊でした。
九州でトマトの葉や茎が赤く変色して枯れる病気が発生、帝都大学の植物病理学者<安藤仁>の元へ元恋人であった農林水産省の植物防疫課長の<里中しほり>が原因調査の依頼があり、現地調査に出向きます。
<安藤>は、研究室と関係のある日本最大の種苗ッメーカーの「クワバ」に勤める友人の<倉内>を訪ねますが、<倉内>は研究室で変死で発見され、彼は熟さず鎖もしないトマトの研究を行っていて、その分析を<安藤>は任されてしまいます。
植物の遺伝子レベルの操作を主軸に、種苗業界における産業スパイや学会の裏事情などを横糸ととして、<安藤>の植物学者と素人探偵役が小気味よいタッチで進行していきます。
バイオハっカー<モモちゃん>など、脇役の登場人物も楽しめ、「このミステリーがすごい」大賞の有収賞受賞作として納得できる一冊でした。
著者<堂場進一>の作品としては、警視庁の刑事<鳴沢了>や<高城賢吾>・<一之瀬拓真>などを主人公に据えた警察シリーズや、新聞社勤務を生かした『虚報』 ・ 『異境』 ・ 『警察周りの夏』 などがお気に入りですが、今回の『夏の雷音』の構成は、今までの作品と一線を引く意外な内容でした。
古書の町として有名な神田神保町は、アウトドアや楽器の町としての側面を持ち、主人公は明王大学法学部准教授<吾妻幹>は、後輩のギター楽器店店長の<安田>から、アメリカのオークションでヴィンテージギター「ギブソン『58』」を1億2千万円で競り落としたのだが、盗まれたという相談を持ちかけられますが、その<安田>が殺されてしまい、先輩刑事<敦賀>に疎まれながらも事件の真相に乗り出します。
生まれ育った神田神保町の細かい街並み描写や、実在店舗と思われるカレー店・喫茶店・鰻屋などや、火事にあった神田「やぶそば」までも登場してきます。そういえば1959(昭和34)年創業の天丼「いもや」さん、この3月で閉店とか。
読み進むにつれ、殺人事件の背景となるヴィンテージギター業界やオークションの裏側、ギターにまつわる世界が浮き彫りにされていきます。
著者の<吉川英梨>は、「女性秘匿捜査官・原麻希」 シリーズなどがあり、本書も女性の視点でなければ書けないような記述が随所に楽しめました。
本書『十三階の女』のヒロイン「黒江律子」は、警視庁公安部公安一課に所属する公安刑事ですが、実際は「十三階」の符丁で呼ばれる警察庁直轄の諜報組織のために活動しています。新左翼組織に潜入させた二重スパイと接触する中で、レイプされかねない状況に陥いります。上司の「古池」は「黒江」耐えろとつぶやくのですが。
その後、北陸新幹線開業日の金沢駅で爆発が起こり、死傷者が多数発生します。二重スパイの情報を入手していれば新幹線テロは防げていたのではないか、と「律子」は悩みます。やがて格差、貧困、劣悪な労働環境の解消などを叫ぶ「名もなき戦士団 スノウ・ホワイト」と名乗る若い女性の犯行声明動画がネットに登場します。
NGO団体の活動家や日本赤軍を連想させる組織の関係者などが捜査対象に浮かぶ中で、イスラム系組織によるトルコ航空機のハイジャック事件が起こり、羽田空港に着陸するという。「律子」たちは惨劇を防ぐことが出来るのか、迫真の攻防が展開してゆきます。
日本の新左翼運動の歴史と「サクラ」「チヨダ」「ゼロ」などと呼ばれた警察庁直轄の諜報組織の系譜を交錯させた意欲作です。任務と愛に揺れる「律子」の造形も新鮮で、続編があり、シリーズ化の予感を感じさせるヒロインの登場です。
酒好きとして、居酒屋探訪記事や酒にまつわる紀行文は大好きで、『居酒屋 おくのほそ道』 などの著書がある<太田和彦>氏と本書の著者 <吉田類> 氏の肩の凝らない文章は、楽しめます。
本書は「中央公論」に掲載されたエッセイの集大成版です。
東京の下町の酒場風景はもとより。北海道・福島・京都・愛媛・熊本と日本各地を巡りながら、酒場風情と密度の濃い人間模様が描かれています。
文章のあちらこちらに、<蕪村>の句が登場するのも、息抜きとして楽しめました。
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