主人公<高城賢吾>警部を主人公とする<警視庁失踪課>シリーズとして、『相克』 に次ぐ三作目が本書です。
港学園理事長の<占部利光>39歳が、一週間行方不明だと彼の母親が失踪課に訪れて、翌日捜査の手掛かりを求めて<高城>と部下の<明神愛実>は自宅を訪れますが、母親の態度は一変して非協力的になり、大学関係者は口を閉ざしてしまいます。
一方、仙台に住む妹から東京の姉<藤井碧>40歳と連絡がつかない失踪事件は、仙台の川にて遺体が発見され、確認に出向いた<法月大智>警部補は、状況的に自殺だと報告してきますが、<碧>は森野女子短大の総務課長としてコンサルタント会社から引き抜かれたやり手でした。
<高城>は、港学園関係者の無関心な態度から単なる失踪事件ではないと判断、失踪課の上司<阿比留真弓>に申し出て、夏休みと言う名目で一人仙台に出向いていきます。
少子化に伴う大学経営を縦糸として、二つの意事件が繋がりを見せ始めながら、心臓病を患っている<法月>が、なぜかむしゃらな捜査行動をとることを絡め、苦悩する<高城>がよく描かれている一冊でした。
著者の作品は、「旗師」として骨董業界で頑張る
<宇佐美陶子> シリーズや、民俗学の教授として各地にまつわる事件を解明していく
<蓮丈那智> シリーズが好きですが、本書はそれらの路線とは全く異質な内容で、表題作を含むドタバタ喜劇的な短篇6篇が、連作でまとめられています。
主人公は<有馬次郎>ですが、もと広域窃盗犯としての裏稼業に携わっていました。今は「大悲閣千光寺」の寺男として真面目に働いていますが、身の回りに次々と起こる事件に関わり、謎を解いていきます。
もう一人の寺男として、ミステリー作家を目指す(ムンちゃん)こと<水野猛>がおり、また「みやこ新聞」文化部の女性記者<折原けい>、京都府警の<碇屋>警部、そして庵主の脇役たちとの関西弁の会話が楽しめます。
京都に深く根付く文化や風習をアイロニカルに描きながら、ウイットに富んだ物語が並び、古都を舞台とした謎解きの妙味が味わえる一冊でした。
本日はわたしの誕生日でもありますが、愛称<ココ>と呼ばれた世界的ファッションデザイナー<ガブリエル・シャネル>(1883年8月19日~1971年1月10日)の誕生日でもあります。
本書は、「獅子座の女」・「恋多き女」と呼ばれながら、仕事一筋に情熱を燃やした、彼女のエッセンスが詰まったミニ伝記といった体裁でまとめられています。
黒いワンピース、セーラーカラー、ジャージ、パンタロン、ショルダーバッグ、リップスティックなど、すべて彼女が生み出したファッションアイテムで、彼女自身の働きやすさを追求した結果が、時代の流れに沿い莫大な富と名声をもたらしました。
本書には、当時の写真が多く挿入され、巻末には年譜と彼女に関する書籍の一覧表もまとめられていますので、資料としても活用できます。
陰陽師として有名な<安倍清明>の師は<加茂忠行>ですが、その長男が<加茂保憲>で幼いころから霊感強く、10歳の頃から父の教えを受け継いでいます。
<藤原為成>は<藤原長実>の娘<青音>に思いを寄せていましたが、恋敵として<橘景清>が表われ、<青音>は5人の無法者が埋められている「首塚」の石を持ち帰った者と添えると<為成>と<景清>に持ちかけます。
一番手の<景清>は、石の封印が解けて現れた「首」に殺され、<青音>も殺されてしまいます。
<保憲>は、死相の出ている<為成>の話しを訊き、<安倍清明>と<源博雅>が酒を飲んでいる席に訪れ、<為成>の関わった事件の後始末を<清明>に依頼します。
おどろおどろとした血なまぐさい話ですが、<村上豊>の挿絵がきれいで、美しい平安時代の絵巻物を読んでいるように楽しめた一冊でした。
29歳の<ケイト>は早く結婚、夫を亡くし12歳になる息子<ジェレミー>と暮らしていますが、朝・昼と掛け持ちの仕事で暮らしていますが、家に帰りますとオスの黒猫<ジャック>とメスのラグドールの<クレオ>の二匹の猫を飼っています。
ある日訪れた弁護士から、遠い親戚がメキシコ湾岸に邸宅を残し、<ケイト>が相続人だと知らされますが、それには「家を売らないこと」と「ペットの面倒をみる」ろいう条件があり、問題はもう一人相続の権利を持つ29歳の<ジェイク>と同居しなければならないことです。
3人でとりあえず引っ越してきますが、ペットは大きな「ピットブル」、「アライグマ」や「大蛇」達で、ペット嫌いの<ジェイク>は戦々恐々で餌やりは<ケイト>に任せていました。
そんなある日<ジェレミー>の学校の悪友<デレク>が殺される事件が起こり、彼は殺人犯の嫌疑をかけられてしまい、元警官の<ジェイク>は、独自の情報網で<ジェレミー>の無罪を証明するために奔走する羽目に陥ります。
人間に対する落ち着いた観察眼を持つ<ジャック&クレオ>の存在が秀逸で、登場する脇役も面白く、心温まる人間関係が楽しめる一冊でした。
亡くなった母がカメラマンだった影響を受け、<志田圭司>も旭川から上京して東京の大学で建築を専攻していますが、将来はカメラマンになるべく家族の団欒風景を撮り続けています。
ある日公園できれいな母娘を写していると、<初島>という男性から「あれは妻の百合香だが、尾行して写真を撮ってほしい」とのアルバイトを頼まれてしまいます。
晴れた日には必ず公園に出向く<百合香>と2歳の娘<かりん>を撮影していくうちに、いつしか<圭司>は2歳年上の<百合香>に恋心を抱いてしまいます。
21歳という多感な年頃の<圭司>に、下宿仲間の<ヒロ>や小学校からの男勝りの同級生<冨永>、父の再婚相手の5歳上の姉<裕子>たちが絡み、ユーモラスな青春小説として面白く読み終えれました。
放送作家の<百田尚樹>ですが、2006年8月に(大田出版)より刊行された本書で、作家デビュー、その同タイトルの文庫本です。
祖父とおなじ弁護士の道を歩もうと司法試験の受験を繰り返している26歳の<健太郎>は、フリーライターの姉<慶子>より、母がふと漏らした「本当の父はどのようなひとだったのか」という疑問に答えるべく、26歳で特攻隊員として戦死した<宮部久蔵>の足跡をたどり始めます。
物語は、当時の<宮部>を知る生き残りの海軍関係者9人を尋ね歩く構成ですが、史実に基づき、その当時の日本や海軍の実情を横糸に、<宮部>の「臆病者」や「何よりも命を惜しむ男だった」という、当時としては芳しくない評判が多い半面、パイロットとしてはとても優秀な技量を持っていることが綴られていきます。
<宮部>の人間的な行動にしばし涙を流す場面も多々あり、最後はこれまた思わぬどんでん返しが待ち受けており、575ページを一気に読ませる見事な一人の男の人生ドラマが楽しめました。
主人公は<夢水清志郎左右衛門>で、自称<名探偵>で「事件をみんなが幸せになるように解決する」ことを信条としています。
本書のタイトル『ギヤマン壺の謎』は、大江戸編序章に納められている3事件のうちのひとつで、長崎の出島で起こった高価な「ギヤマンの壺」が蔵からなくなった事件を持ち前の推理力で解いていきます。
長崎から江戸に向かう途中に知り会った土佐弁の侍との道中記にも謎解きが入り、竹光の刀ながら、『天真流』の使い手である<中村巧之助>も登場、江戸に付いた<名探偵>は、三つ子の三姉妹が大家の長屋に住むことになり、 そこには<中村>をはじめ、変人の絵描き<絵者>や瓦版屋<真理>が住んでいました。
昨日のことも忘れてしまう常識ゼロの<名探偵>ですが、目の前で起こる事件に関しては名推理で事件を解決、ユーモアに富んだ一冊でした。
著者の短篇集として<森博嗣自選短篇集>の副題が付いていて、13篇が納められています。
タイトルになっている表題作は、13篇目に収録されていますが、ファンタジックな物語でした。
著者自身が某国立大学の工学部の教授と言う立場ですので、『キリシマ先生』の一遍は、現実的で面白く読めました。
どんでん返しの『卒業文集』、ミステリーっぽい『虚空の黙禱者』や『小鳥の恩返し』など、著者の特性がよく表れた作品集でした。
北海道興部の豪雪の夜、一人の女性の黒焦げ死体が発見されるところから物語は始まります。
ミステリー作家の<神崎慧一>は、致命的な新形ウイルスを主題にした『モナリザの涙』を出版しましたが、評論家<生野幾太郎>の「ウイルスが無生物の絵画の中に潜んでいるとは無知な」と酷評され、落ち込んで筆を絶ってしまいます。
かたやH5N1型鳥インフルエンザらしき病人が沖縄で発生、札幌にある感染症の指定医療病院の院長である<内倉洋次郎>は、兄の厚生大臣<内倉創太郎>に記者会見の要領を教えますが、沖縄の感染も落ち着いたころ兄の隠し子である<神崎>が病院に現れ、その日のうちに亡くなってしまいます。
彼の治療に当たっていたのが、院長の<洋二郎>と医師<山口雄吾>、そして冒頭の女性の看護師でした。
<神崎>は国際的に動いている画商<榎本>に誘われ、ノルウェーの画家<ムンク>のオスローにあるかってのアトリエに出向き、その際トルコの贋作グループに接触、目の前で突然発病したトルコ人に驚き、香港経由で成田へと帰国、自分の体調がおかしいことに気づき、実父の立場を考えて急きょ伯父の病院のある札幌まで出向きました。
<山口>は<神崎>の死に間際の言葉とパスポートから彼の行動を推測、無生物の宿主ではウィルスの生存は無理ですが、ボール紙に繁殖する「ダニ」であれば、「ネズミ」との生態関連で新形ウィルスの変異が可能なことを突き止めていきます。
1918年の「スペイン風邪」をはじめ、1957年尾「アジア風邪」、1968年の「香港風邪」などの歴史を踏まえ、緻密に計算されたバイオミステリーが楽しめた一冊でした。
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