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夫<隆>と世界一周のヨットの旅に出た<清子>は、暴風雨に会い、無人島に流れ着くところから物語は始まります。
当初は夫婦二人きりの生活でしたが、やがて日本の若者21人が島に流れ着き、女性は46歳の<清子>一人という共同生活が始まりますが、夫<隆>は亡くなります。
日本人だけでの生活でしたが、ホンコンと呼ばれる謎めいた11人のグループが流れ着いてきます。
紙の一枚、鍋のひとつもない無人島でのサバイバル生活を通して、各登場人物たちの人生の隠れた秘密が描かれ、文明社会との対比でもって、人間の本能に迫る迫力ある場面が展開、面白く読み終えれました。
特に夫を4人も替えながら、女一人で男の中を渡り歩く<清子>のしたたかさが印象的で、ラストの鮮やかな締めくくりは、「谷崎潤一郎賞」受賞という名に恥じない構成でした。
本書は2部構成で、第一部は『小説すばる』に掲載された7話からなり、第二部は文庫本のために書き下ろされています。
第一部では、福岡を拠点とするヤクザの<馬場組>が、フロント企業として<倶利伽羅紋々スタッフサービス>を立ち上げ、読者に目的がわからないまま零細旅行会社社長<飯田>、旅館<武富>の主人<芦野>、コンパニオン会社の経営者<岡田>、県労働局の役人<西丸>、パソコンが得意な大学生<鈴木>、大型ドライバーの<大胡>、居酒屋店主<藤枝>、など7名をヤクザな手口で誘い込み、<倶利伽羅紋々スタッフサービス>の社員として引きずり込まれます。
第一部に登場する7話それぞれが楽しめる内容で、すっかり福岡弁の世界に引きずり込まれました。
第二部では、集められたメンバー達が<倶利伽羅社>の目的を推理するなか、暴力団滅亡を掲げる警察の面々が登場、結末が予測できないなか、怒涛のノンステップミステリーが展開、ハラハラドキドキのコンゲームが楽しめました。
クーデターで失脚したタクシン元首相の支持者の反政府デモで、日本人ジャーナリスト村本博之さんが銃撃に遭い、亡くなられました。
告別式が執り行われてから、一週間が経ちました。
報道ジャーナリストとして、使命感に燃えていたことだと思います。改めてご冥福を改めて祈りたいと思います。
さて今日は『偽りのホワイトハウス』を読み切りました。
元ブッシュ大統領の報道官の回想録です。
ブッシュと同じテキサス州出身の著者ですが、冷静に、イラク戦争に突入した経過を包み隠さず書いています。
ジャーナリズムを選挙に勝ち抜くために利用し、勝ち抜いた後も情報操作を繰り返していた現状がよく描かれています。
報道と取材の自由をかけたジャーナリストが、今の日本に存在するのかと改めて疑問に感じました。
政府の発表記事を鵜呑みに、そのままの報道しているだけで、自らの目と耳と足で疑問点を厳しく問うこともなく、隠された真実を探ろうともしないメディアは、もはやマスコミの本質を忘れているのではないでしょうか。
安全な日本にいて、バンコクのデモ風景を眺めているでけではなく、各社それぞれのコメントを付けて報道すべきだと、村本さんの出来事に重ね合わせて読み終えました。
本書は全6章からなる、本とカルチャーに関するエッセイ集です。
元町田駅前の大型古書店「高原書店」に勤務していただけあって、本の虫の著者らしい読書内容を感じるとともに、多くの本が登場、著者の軽快な解説文が楽しめます。
第4章の『なんだよ風見鶏』は、雑誌『anan』に連載されたエッセイですが、神戸に訪れた際のページがあり、ちょっぴり嬉しくなりながら読みました。
文庫版のあとがきに、<「私は、あらすじ紹介に終始しない」・「最後の一、ニ行で、『しかし、これはいただけない』といったどんでん返しをしない」ことを心がけたつもりだ。>は、わたしも読書日記としてコメントを書いている立場として、「なるほど!!」と納得です。
全8話の短篇が納められていますが、どれも連作的に過去と未来が交差する構成で、どっしりと胸に重みを感じる内容でした。
冒頭は、9世紀ごろの地方豪族・浅子一族は、国司として派遣された夫婦と5歳の子供を追放しますが、やがて親子は冬山の中で餓死する場面から始まり、どのような物語が紡ぎだされるのか、わからないまま語り手の世界に読者は没入していきます。
現在では樹齢推定千年と言われる大木に育った「くすの木」は、「日方(ひかた)神社」のご神木となりますが、昔は「ことりの木」(=子盗りの木)と言われ、悲しい歴史を背負ってきています。
地方都市の高台にそびえ立つこの「千年樹」にまつわる人間ドラマが、時代を超えて交差する切ない物語が描かれており、特に『郭公の巣』は圧巻でした。
元警視庁組織犯罪対策二課の所属していた<河合直史>は、警察捜査の限界を感じたところ、ロシアマフィアの一味に拉致され、殺されかけたところを『ブラックチェンバー』と名乗る組織に一命を取り留めます。
『ブラックチェンバー』とは、進化する国際犯罪に対抗するために非合法的に作られた地下組織で、<河合>は日本支部のリーダーである<北平>にスカウトを受け、台湾で一年間訓練を受けさせられます。
休暇としてバンコクに出向きますが、そこで<河合>を拉致して殺せと命令を出したロシアマフィアの<コワリョフ>と遭遇、彼は部下と共にホテルのバーで射殺されてしまいます。
北海道を縄張りとする<コワリョフ>ですが、バンコクやベトナムでの行動から、何がしかの大がかりな取引の計画が考えられ、<河合>は『ブラックチェンバー』のメンバーである元北朝鮮の女性工作員であるKキム・チヒ>と行動を共に動き出していきます。
ロシアナフィアと日本のやくざ「山上連合」の思惑が交錯するなか、おもわぬ国際的陰謀を突き止める<河合>の正義感ですが、『ブラックチェンバー』の「犯罪による利益を収奪する」という強欲な考え方の対立が見事に描かれ、最後まで気の抜けない展開で楽しめました。
監視カメラで一日中出入り口は録画されており、セキュリティーの施錠も行われているT建設技術研究所の構造実験棟で4人の銃殺死体が発見されました。
いずれも至近距離から撃たれており、4人のポケットには<λ(ラムダ)には歯がない>と書かれたカードが入っており、また4人とも死後に歯が抜かれていました。
殺人が行われた夜に研究所内の別棟で実験を行っていたC大学の2年生<海月及介>と院生の<山吹早月>は、N大学院生の<西之園萌絵>の協力のもと、事件の解明に乗り出し、事件に関連して<西之園>は、自分の抜け落ちた大切な過去を取り戻します。
建築の「免震構造」をうまく取り込んだトリックで、最終段階で真相にたどり着きますが、登場人物たちの個性がよく出ており、建築設計を生業としている立場としても、楽しめました。
この17日、日本弁護士会の次期会長に宇都宮健児氏が正式決定しました。
長年対抗馬の出ない選挙で、大きな争点もなく会長が選ばれてきているようですが、今回は決選投票での当選ということもあり、印象に残りました。
弁護士と聞けば、一般的には難しい司法試験を合格してきたエリートというイメージでしょうか。
裁判所の仕事に絡んでいますので、多くの弁護士(代理人)を見てきましたが、正直「正義の味方」というイメージからは程遠い感があります。
最近は、電車の広告やラジオのCMに弁護士事務所の宣伝が行われていますが、広告解禁や報酬自由化の先駆けとして行動されているのが、この西田氏です。
ようやく貸金業法の改正で、金利のグレーゾーンが無くなりました。国民が多重債務で苦しんでいるときに、報酬の少ない仕事に見向きもしない弁護士たちを西田氏は、弁護士会の組織共々批判されています。
時期会長の宇都宮氏も、多重債務者問題で庶民派として活躍された方です。
法科大学院の問題を含め、弁護士会としての課題は多そうですが、報酬額の多寡で仕事を選ぶような組織にだけはなってほしくないと願うばかりです。
普段、自分の仕事関係に関する書籍は読まなくなりました。
建築家独特の言い回しの文脈にも飽きていますし、理想と現実との違いを、再確認するにはいいのかもしれませんが、自分のプロフェッションとしての方向性は見定めているつもりです。
久しぶりに、「建築」関係の書籍を手にいたしました。
筆者は、市井の建築事務所から東京大学土木学科(今は社会基盤学と呼ばれているようです)で、教鞭をとられています。
建築士としての経験を、土木という分野でどう生かされているのかなと、興味を持ちました。
建築は設計者の自己完結性が強く出てくるものですが、周辺環境との調和を考えない方が多いように見受けられます。
立地する敷地や歴史性といった大きな規模での発想が、大事なことだと警告されているのは的を得ていると思います。
前作 『花散らしの雨』 に続き、<みをつくし料理帖>シリーズの第三巻目が本書です。
二月の初午の日に新しいお店で営業を再開した「つる家」も、はや夏の土用の入りが近づき、暑気払いの献立に頭を悩ませています。
戯作者<清右衛門>が版元<坂村堂>を連れて「つる家」を訪れ、<坂村堂>は料理のうまさに自ら雇い入れている料理人に手ほどきをしてほしいと連れてきた男は、<澪>が奉公していた「天満一兆庵」の江戸支店を任されていた若旦那<佐兵衛>の奉公人<富三>で、彼を問い詰めた<芳>は思いがけない息子<佐兵衛>の行状を知らされ、臥せってしまいます。
上方と江戸との料理の素材の違いが面白く、また「包丁」の扱い方などの基本的な料理人の心構えとしての描写は、いつもながら見事です。
上方から運ばれた「鱧」を江戸職人は調理できず、運よく吉原遊郭の翁屋に仕出しに出向くことができた<澪>は、幼馴染の<野江(あさひ太夫)>と夢のような出会いを経験します。
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