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先月、学術誌「バイオロジカル・コンサベーション」による 昆虫種の絶滅の危惧 の状況が進んでいるという残念な報告がなされています。
本書では、50科を超える虫たちが取り上げられていますが、「より小さく、より目立たなく、より知られていないものを前面に」を基準に選択したといいます。昆虫学者ではない素人の私たちは、一生目に触れず、万が一見かけたとしてもそれが何者なのか決してわからないであろう虫たちばかりがとりあげられています。
「メクラチビゴミムシ」は、ラテン語の学名は「素晴らしき者」といった意味をもつらしいのですが、洞窟や水気の多い地下の砂利の隙間などにすむうちに目が退化したこともあり、日本ではひどい名前がつけられています。この仲間には、絶滅危惧分類の上から2番目の「IB類」に入るものが2種(ウスケメクラチビゴミムシ、ナカオメクラチビゴミムシ)もあり、何十年ぶりかに再発見されたりしているのに、保全の手段は何もされていません。「絶滅したと思われた魚 「クニマス」 の再発見と同等の学術価値があるのに」と著者はぼやいています。
「ケラトリバチ」は、「オケラ」だけに卵を産み付ける。「オケラ」の掘った穴を見つけるとその中を走り回る。ひとしきり暴れた後は外に出て穴から「オケ」ラが顔を出すのをじっと待つ。顔を出した途端、とびかかって毒針を刺し、気を失っている間に体に卵を産み付ける。そんなケラ専ハンターが日本には2種います。
奴隷狩りをするアリの話は有名ですが、日本にも「イバリアリ」という奴隷狩りをするアリが1種類だけいました。「トビイロシワアリ」の巣を乗っ取り、女王蟻を殺して、残った「働きアリ」をこき使う。食事の支度すら自分ではできない。「働きアリ」はだんだん死んでいくので、労働力を補給するためによその巣から、蛹や卵を奪いにいく。これが奴隷狩りです。
ごく限られた場所ではあったものの、2つの県(岡山県・山梨県)で確認されていましたが、今ではただ1カ所になってしまっているそうです。「なぜか最近レッドリストから外されてしまった」と国の冷たい仕打ちを嘆く著者。
昆虫好きとしては、著者の昆虫に対する愛情がひしひしと伝わってくる一冊でした。
ラブホテルで「電トリ(電気トリップ)」という脳に電気で刺激を与えトリップ体験ができる装置を使用中に、女子大生が殺害される事件が発せ。ホテルに残された毛髪、体毛を用い、DNA操作システムによりモンタージュ写真まで作成でき、犯人はあっけないほど簡単に検挙されました。
DNA捜査で検挙率は格段にあがりました、若い女性が頭部を銃で撃たれるという連続婦女暴行殺人事件が起き、残された精液によるDNAデータから、すぐに犯人は割り出されると思われたのでが、DNA検索システムは「NF(Not Found)13」という結果を示した。これは、類似する遺伝子が登録されていない13番目のケースでした
そんな折、新世紀大学病院の脳神経科の、厳重に警備された病室においてDNA操作のプログラムを作製した兄<耕作>と妹<早樹>が殺害されます。驚くべきことに、彼らを殺害するのに使用された拳銃は、NF13事件で使われたものと同一のものでした。現場に残された毛髪のDNA解析をした<神楽龍平>は、現れたDNAモンタージュが自分の顔にそっくりなので驚きます。<神楽>には<早樹>たちに会った際、空白の数時間がありました。彼は二重人格者で、新世紀大学病院の脳神経科の<水上>医師の治療を受け、もう一人の人格である<リュウ>との対話を進めていました。本当に自分の別人格が殺害したのか、確かめようとしますが、<リュウ>に確認することはなかなかできませんでした。
彼らを殺害した犯人と疑われて追われる身となった<神楽>は、<早樹>たちの残した最終プログラム「モーグル」が事件解決の鍵になるのではないかと、プログラムを探すために<早樹>たちの別荘に向かいます。
一方、連続暴行殺人事件を捜査していた<浅間>刑事は、捜査に協力的であったDNA捜査研究所の<志賀>たちが、急に捜査打ち切りのために動いていたことを知り、上司の<木場>と二人で背景に何かがあると察して動き出し ます。
ちなみにタイトルになっている「プラチナデータ」とは、法案として国民にDNAの登録を促しながら、政治家などの特定人物のDNAは検索されないようにされたデーターを意味しています。
<誉田哲也>ファンとして、前回読んだ 『月光』 は、あまり評価できませんでしたが、本書は誉田作品を読んできたファンとして楽しめる内容でした。
ただ、本書は登場人物と事件が過去の作品とリンクしていますので、『歌舞伎町セブン』 と 『ルージュ 硝子の太陽』、 できれば『ジウ』シリーズ (Ⅰ) ・ (Ⅱ) ・ (Ⅲ) を読んでから読まれたほうが、登場人物たちの背景が分かり、より楽しめます。
沖縄の反米活動家の老人がが米軍の車で死亡する事故を契機に、反米軍基地反対のデモが各地で起こる中、左翼の親玉<矢吹近江>が公務執行妨害という別件で逮捕されますが、取り調べ中、沖縄問題を取材していたフリーライターの<上岡慎介>が覆面集団にめった刺しされ殺害されます。また彼は犯人は米兵ではないかとと思われる一家殺害事件を追っていました。
殺害された<上岡>は、闇の殺人集団「歌舞伎町セブン」のメンバーであり、首領の<陣内陽一>は、メンバーである<小川>刑事の情報により、仇討ちを図ります。
そんな折、日米安保条約を破棄させることを目的として、官房副長官の娘が誘拐される事件が発生、誘拐メンバーは、<上岡>殺害メンバーであり、<陣内>たちが立ち上がります。
日米間の政治性を含んだ作品ですが、沖縄で繰り返される日米地位協定の矛盾と不幸の歴史は、今回の犯罪グループでなくても義憤に駆られます。
本書『虚像の道化師 ガリレオ7』は、2012年8月10日に文藝春秋から刊行された著者の連作推理小説として「ガリレオシリーズ」第7弾、短編集としては4作目となり、前作まで5篇収録されていた短編集とは異なり、本書では4篇が納められています。
(「幻惑(まどわ)す」)・・・ビル5階にある新興宗教「クアイの会」の道場から、信者の男が転落死した。その場にいた者たちは、男が何かから逃れるように勝手に窓から飛び降りたと証言し、教祖<連崎>は相手に指一本触れないものの、自分が強い念を送って男を落としてしまったと自首してきた。教祖の“念”は本物なのか?< 湯川>は教団に赴きからくりを見破る。
(「心聴(きこえ)る」)・・・とつぜん病院内で暴れだした男を取り押さえようとして刑事<草薙>が刺された。逮捕された男は幻聴のせいだと供述した。そして男が勤める会社では、ノイローゼ気味だった部長が少し前に自殺し、また幻聴に悩む女子社員もいた。幻聴の正体は。
(「偽装(よそお)う」)・・・大学時代の友人<谷内>の結婚式のために、山中のリゾートホテルにやって来た<湯川>と<草薙>。その日は天候が荒れて道が崩れ、麓の町との行き来が出来なくなる。ところがホテルからさらに奥に行った別荘で、夫婦が殺されていると通報が入る。<草薙>は現場に入るが、<草薙>が撮影した現場写真を見た<湯川>は、事件のおかしな点に気づく。
(「演技(えんじ)る」)・・・劇団の演出家<駒井>が殺された。凶器は芝居で使う予定だったナイフ。だが劇団の関係者にはみなアリバイがあった。湯川は、残された凶器の不可解さに着目します。
テレビドラマにもなっている原作ということで、短編集 『ガリレオの苦悩』 と本書を読んでみましたが、伏線の積み重ねのミステリーとは違い、電磁波とか指向性スピーカーなどの機器類がトリックに使用されているのは、正統派ミステリーといえるのかと疑問に感じています。
生まれ故郷の京都から大学進学を目指して東京の予備校に通う20歳の<高村小夜>が、自宅アパートで撲殺されているのが、発見されます。
コンビニでバイトしながらつつましい生活ぶりの彼女がなぜ被害者なのかと、違和感を感じる<目黒一馬>警部は、部下の<山名勘一>とともに捜査を始めます。
生まれ故郷の京都・美山を詠んだ短歌が短歌大賞を受賞している彼女ですが、祖母は<小夜>の遺骨引き取りをかたくなに拒んでいるのに違和感を覚えた<目黒>は京都に出向き、<小夜>の母親<小百合>の昔話に興味を持つのでした。
運命に翻弄された女たちの悲劇が、悲劇を招く事件、真実が分かり思わぬつながりに驚愕せざるを得ない、切ないミステリーでした。
主人公の<岩見有紗>は33歳、広告代理店に勤めていた29歳の時に合コンで知り合った<岩見俊平>と「でき婚」、現在は東京のウォーターフロントに建つタワーマンションの29階に住んでいます。
3歳の娘<花絵>を通して4人の「ママ友」たちとのしがらみに満ちた付き合い、幼稚園入園を控え悩んでいますが、夫はアメリカへ単身赴任中で、離婚の申し出が言い渡されています。<有紗>は、夫と出会う前に離婚歴があり、実家のある新潟に再婚した夫のもとに10歳になる男の子がいます。
セレブな住環境の複雑な人間関が綴られていきますが、なんだか優柔不断な主婦<有紗>の行動には、納得できるところは見いだせず、同じく主婦を主人公にした作品として前回読んだ 『だから荒野』 と同様に、女性と男性の視点の違いがあるのでしょうが共感のできる内容ではありませんでした。
著者の代表作ともいえる 『ストロベリーナイト』 で始まる<姫川玲子>シリーズの 『ルージュ 硝子の太陽』 に次ぐ最新刊『ノワール』の広告の横に本書が出ていました。未読(2013年4月25日文庫本刊行)ということで読んでみたのですが、「誉田哲也史上最大の”問題作”のコピー通り、私は、好きな内容ではなく、最後まで楽しむことはできませんでした。
高校の同級生の少年が運転するバイクで、自宅近辺とは関係ない遠方地で、轢かれ死亡した姉<涼子>の死の真相を探ろうと妹の<結花>は、姉と同じ高校に入学し同じ写真部に入部します。
やがて姉が音楽教師の<羽田>と不倫関係にあり、校内で現場を目撃された同級生の<菅井清彦>と<香川瞬>に口止めとして体を提供していた事実を知らされます。また<菅井>は盗んだバイクで姉をひき殺した人物でした。
私としては、優柔不断の音楽教師の<羽田>や、<涼子>をもてあそぶ<菅井>や<香川>の行動が胸糞悪く、文中<涼子>自身の性格描写が少なく人物像がつかめない展開で、妹の目線だけの姉の描写では、市の真相を読者に分からせるには無理があるように思え、エンタティメントとして楽しむことができませんでした。
たしかに小説としての構成自体の賛否両論というよりも、好き嫌いのが出る問題作だと思います。
<百田尚樹>の作品は講談社文庫として、『永遠の0(ゼロ)』 ・ 『輝く夜』 ・ 『風の中のマリア』 と続き、第4巻目として本書『影法師』(2012年6月15日)が刊行されていますが、著者初めての時代小説になります。
時は江戸時代の茅島藩(架空な藩)8万石の下士の家に生まれ、幼い日に目の前で父親を切り捨てられた<戸田勘一>(後の名倉彰蔵)と その時に<勘一>をかくまった中士の磯貝家の次男に生まれ、剣も才も人並み外れて優れた<磯貝彦四郎>との士官するまでの交友を描き、将来を嘱望された<彦四郎>との思い出が綴られていきます。後に、沼の干拓で成功し藩の財政立て直した功績で、筆頭家老まで上り詰めた<彰蔵>は、<彦四郎>の不遇の死を知り、その死の真相を求めていきます。
二人の運命を変えた20年前の事件を契機に、なぜあえて剣の技量に優れながら「卑怯傷」まで背中に負い、自ら藩から姿を消したのか、武士とはなにか、真の男との生き様そのものの<彦四郎の>行動とともに、おもわぬ真実に涙する感動の一冊でした。
本書『ガリレオの苦悩』は、「ガリレオ」シリーズ第4弾として、2008年10月24日に刊行されています。
この作品から、テレビドラマ『ガリレオ』の企画から生まれたキャラクターである女性刑事<内海薫>が登場、<草薙俊平>とのペアで事件の捜査に当たります。本作ではガリレオ(先生)こと帝都大学<湯川学>准教授に大きく関わってくる事件が、短編として5篇が収録されています。
タイトルになっている「ガリレオの苦悩」とは、
第1篇「落下る」では、頑なに捜査に協力しないという彼を前に、必死になって食らいつく<内海薫>を前にして。
第2篇「操縦る」では、自分の息子を殺めてしまった自身の恩師<友永>を前にして。
第3篇「密室る」では、身内を守ろうとするバトミントクラブ時代の友人<藤村>を前にして。
第4篇「指標す」では、水晶玉のダウジングを信じる純粋な少女<葉月>を前にして。
第5篇「撹乱す」では、自身を狙う科学者「悪魔の手」を前にして。その謎解きに苦悩します。
男性では見過ごしてしまいそうな些細な物事に対し、女性刑事<内海薫>の観察力が随所に生かされていました。
前回読みました<百田尚樹>の 「海賊と呼ばれた男」 と同様に、本書も原作として<大谷健太郎>監督にて映画化された 『ジーン・ワルツ』 で、2011年2月5日に東映系にて全国上映されている作品です。
作者自ら「海堂シリーズ現代篇」と呼んでいて、「本書」 ・ 「マドンナ・ヴェルデ」 ・ 「ナニワ・モンスター」 ・ 「スカラムーシュ・ムーン」 の4冊があげられており、後先になりましたが読み終えました。
マリアクリニックの院長<三枝茉莉亜>の息子<三枝久広>が、北海道極北市において一人の妊婦の術中死により産婦人科医として逮捕された事件が産婦人科医療に大きな衝撃を与えてから半年後、帝華大学医学部産婦人科学教室の体外受精のエキスパートである女医<曾根崎理恵>は発生学講師の傍ら、週一回非常勤の医師として産婦人科医院「マリアクリニック」に勤務しています。
<三枝久広>の母<茉莉亜>が院長を務めるマリアクリニックは先の逮捕事件の煽りを受けた上に、<茉莉亜>が末期の肺癌に侵されたことにより閉院まじかな奈か、<理恵>は、それぞれに深刻な悩みを持つ最後の患者である5人の妊婦達と関わっていきます。
一方、理恵の同僚の准教授<清川吾郎>は、<理恵>が「代理母出産」に手を出したという不穏な噂を確かめるべく「マリアクリニック」に出向きますが、最後の妊婦たちの帝王切開を執刀することになります。
思わぬ結末に驚かされますが、少子化が問題になるなか、出産に対する官僚の弊害などを浮き彫りにし、人工授精の問題点を鋭く突いた内容でした。
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