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神戸:ファルコンの散歩メモ

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今年の読書(43)『日の昇る国へ』佐伯泰英(新潮文庫)

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今年の読書(43)『日の昇る国...
第一巻『死闘』(2008年1月5日:徳間文庫刊行)に始まり第十一巻『帰還』に終わる<古着屋総兵衛影始末>シリーズに次ぎ、新シリーズとしての<新・古着屋総兵衛>シリーズも、第一巻 『地に非ず』 (2011年1月28日刊行)に始まり本書第十八巻の『日の昇る国へ』(2019年6月1日刊行)にて完結となりました。

恒例の「古着市」の開催直前に。将軍家近習の旗本「古瀬」が売り上げの一部を上納せよとの圧力を大黒屋にかけてきます。「古瀬」は無益の小普請組から瞬く間に将軍家近習にのしあがった男であり、総兵衛たちが背後関係を探りますとあくどい商売の呉服店「きき」が浮かび上がりますが、無事に始末をつけ、第十回目の「古着市」はいつも通りに開催されます。

桜子と婚姻を済ませた総兵衛は、新造船「カイト号」を引き取りに、バタヴィア迄桜子と一緒にイマサカ号にて日本を離れます。

「カイト号」を引き取った総兵衛一行は試験航海を繰り返し、船員共々新しい船に慣れていきますが、総兵衛は日本に戻らず、日の昇る国アメリカを目指して旅立つことを決心します。

日本の大黒屋の行く末は、徳川幕府との関係は、鷺沢一族の行く末はなどと読者としては気になる部分も多く残るところですが、長きにわたる物語としては、頃合いの完結かもしれません。
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今年の読書(42)『いざ帰りなん』佐伯泰英(新潮文庫)

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今年の読書(42)『いざ帰りな...
<佐伯泰英>の「新古着屋総兵衛」シリーズも、第16巻 『敦盛おくり』 に次ぐ本書『いざ帰りなん』で17巻目になりました。

<総兵衛>率いる鳶沢一族のに運び方の<文介>の動きがおかしいと<北郷陰吉>の報告を受けて、<総兵衛>は、身辺調査を<陰吉・平十郎・忠吉・林梅香>らに委ねますが、若年寄りの<京極高久>が金貸し<三留屋>と組み、古着市の乗っ取りをはかっていることを突き止めます。

古着市開催が迫る中、<総兵衛>たちは、<京極>の屋敷に乗り込み、<京極>の暗殺を裏の貌として働き、事なきを得ます。

一方、大黒丸とイマサカ号の交易船団は、新造船カイト号の建造のめども立ち、2年ぶりに日本へ戻ってきます。

日本では、京都に出向いた<総兵衛>と<坊城桜子>の仮祝言が執り行われ、盛大に開催された「古着市」でも披露され、大黒屋としての基盤が固まっていきます。無事夫婦になったふたりは、<総兵衛>を船団長として新造船のカイト号の引き取りと交易に旅立ちます。

本書で、<総兵衛>の配下となった元秋月藩主の<筑後平十郎>の過去が語られ、彩りを添えていました。
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今年の読書(41)『検事の信義』柚木裕子(KADOKAWA)

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今年の読書(41)『検事の信義...
たまたま手にした 『朽ちないサクラ』 が気に入り、前回(40)の 『最後の証人』 に続く<柚月裕子>の最新作が本書です。

第1作目の『最後の証人』では、ヤメ検として弁護士として登場している<佐方貞人>ですが、シリーズとしては検事として『検事の本懐』・『検事の死命』に続く4作目が本書で、「裁きを望む」 ・ 「恨みを刻む」 ・ 「正義を質す」 ・ 「信義を守る」の4篇が組まれ、これらのタイトルに主人公の検事<佐方貞人>の人物像が浮かび上がる構成になっています。

「裁きを望む」は、ある住居侵入および窃盗の容疑で逮捕・起訴された若い男の論告求刑公判で、佐方が「無罪」を論告するという異例の場面で始まります。

無罪論告はきわめて珍しく、全国の裁判所で年に1、2例あるかないかです。被告人はある資産家の家に侵入し、高価な腕時計を盗んだとして起訴されていた。しかし、証拠調べが不十分で、また被告人が被害者の非嫡出子であることがわかり、スキャンダルな展開となっていました。

腕時計は事件の前に被害者から被告人に手渡されていました。警察に逮捕されたときに、そう証言すれば起訴されることはなかったと思われた。まるで起訴されることを望んでいたような被告人の思惑とは何か。このあと、遺産相続をめぐる「トリック」や地方検察庁内部での人間関係が絡み、<佐方>は厳しい判断を迫られます。

そのとき、<佐方>が考えたのは「罪はまっとうに裁かれなければならない」という当たり前のことでした。ところが被告人は別のことを考えていました。種明かしになるので、詳しく書けませんが、<佐方>はある奇手に出ます。このあたりは著者がとくに知恵を絞ったに違いありません。

かつて検事を主人公にしたリーガル・ミステリーがなかった訳ではなく、<小杉健治>の 『決断』 に登場する東京地検の<江木秀哉>なども魅力的でした。<柚月>さんはシリーズ前作の『検事の死命』(2013年9月5日)から6年経て、新たな検事像を確立させたようです。
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今年の読書(40)『最後の証人』柚木裕子(角川文庫)

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今年の読書(40)『最後の証人...
同じ著者の 『朽ちないサクラ』 が好みでしたので、手にしました『最後の証人』です。本書は、2010年5月24日単行本にて刊行、2018年6月25日文庫本化されています。

主人公の<佐方貞人>は12年前まで米崎地方検察庁の検察官でしたが、自らの「正義」を貫くためにその職を辞し、東京都内で「ヤメ検」として弁護士事務所を開いています。引き受ける事件は、「事件が面白いかどうかで、金銭面には無頓着です。

そんな彼が、今回弁護するのはホテルの一室で起きた刺殺事件の被告人です。物的証拠・状況証拠共に、被告人の有罪はほぼ間違いないとみられており、対決する検事<庄司真生>も若手ながら<佐方>が検事当時の上司の<筒井>の部下らしく自信に満ちた切れ者です。しかし<佐方>はこの事件がそんなに単純なものではないと感じていました。

被告人の無罪を証明するためには、あるひとりの証人を出廷させ、証言させることができるかどうか。事件の裏側に隠された真相に辿り着いた時、この裁判の勝敗はそれで決まると<佐方>は確信していました。

裁判は一見男女の痴情のもつれでの殺人事件だとおもわれましたが、7年前に起こった小学生が死亡した自動車事故が伏線として描かれ、被告人と被害者の読み違いをさせるという著者の目論見に「うっ!」とさせられた読み手が多かったのではないでしょうか。
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今年の読書(39)『ヒト夜の永い夢』柴田勝家(ハヤカワ文庫JA)

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今年の読書(39)『ヒト夜の永...
著者の<柴田勝家(本名は、綿谷翔太)>さん(31)は、成城大学大学院文学研究科日本常民文化専攻博士課程前期修了。在学中の2014年、『ニルヤの島』で第2回ハヤカワSFコンテストの大賞を受賞し、デビューしています。

本書『ヒト夜の永い夢』は奇想天外、人を食った設定です。昭和2年、稀代の博物学者「南方熊楠」のもとへ超心理学者の「福来友吉」が訪れます。「福来」は明治43年のいわゆる「千里眼事件」で学会を追放された変わり者です。

「福来」の誘いで学者たちの秘密団体「昭和考幽学会」へ加わった「熊楠」は、新天皇即位の記念事業のため、思考する自動人形を作ることになります。

「熊楠」が研究する粘菌を使ったコンピューターを組み込んだ「少女」は、「天皇機関」と名付けられますが、「2・26事件」の混乱へとストーリーは展開していきます。

文中、孫文、江戸川乱歩、北一輝、宮沢賢治、石原莞爾などが登場、<柴田>さんはあるインタビューに答え、「宮沢賢治」と「南方熊楠」に交流があったという設定は、パズルのように時系列を検討して考えたといいます。

SFだからなんでもありと思われますが、昭和史と昭和の文化史を押さえた上のストーリーは「伝奇ロマン」風ですが、妙に説得力を持ってせまります。

俳優の故<西村晃>さんの父、生物学者、元・北海道帝国大学教授「西村真琴」も重要な役どころで登場します。「西村真琴」は「學天則」という機械仕掛けの人形を実際に開発し、昭和天皇即位を記念した大礼記念京都博覧会(1928(昭和3)年)、に展示したことでも知られています。終盤、「學天則」が思わぬ形で「天皇機関」と対峙します。

「天皇機関」となった少女が魅力的です。果たして何なのか? 人間なのか機械なのか、生きているのか死んでいるのか? 波乱の展開の中に静かで思弁的なテーマが内包されている全573ページでした。
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今年の読書(38)『十二年目の映像』帚木蓬生(集英社文庫)

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今年の読書(38)『十二年目の...
本書『十二年目の映像』は、単行本としては、1981年に刊行されています。(集英社文庫)としては、『賞の棺』 ・ 『薔薇窓の闇(上・下)』 に続いて、2014年11月25日に発行されています。

大手放送局に勤務する25歳の<川原庸次>は、かつて学生運動に参加していたという上司<鎗居>からT大時計台闘争の時に立てこもった時計台内部から撮影したというスクープ映像の存在を聞かされます。初めは半信半疑の<川原>でしたが、十二年間にわたり地下に潜伏し続ける男<井田>と出会い、そのフィルムの存在を確信します。しかし彼の不審死を境に事態は急変していきます。テレビ局を舞台にした緊迫の長編サスペンスです。

かたや、<川原>と女優志望の恋人<和田英>との関係や、テレビ局内のドラマ制作の流れ、テレビ業界にしぶとく生き続ける業界人たちの生き様を織り込み、最後まで緊迫感をもって読み進められた一冊でした。
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今年の読書(37)『死命』薬丸岳(文春文庫)

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今年の読書(37)『死命』薬丸...
本書『死命』は、2012年4月文藝春秋から刊行され、2014年11月に文春文庫として発行されています。 『刑事のまなざし』』(2011年6月) ・ 『ハードラック』(2011年9月)に次ぐ作品になります。

『死命』は、胃癌を患い余命いくばくもなく、自らの死と隣り合わせの状態にある2人の男が織りなす、壮絶な物語です。子供のころ受けたトラウマで関係を持った女性を絞殺することに喜びを感じる33歳の<榊真一>と、刑事としての矜持をもちえた妻を亡くした53歳の捜査一課の刑事<蒼井凌>は、所轄の28歳の新人刑事<矢部知樹>と組み、女性を狙った連続殺人事件を追います。刑事人生に心血を注いできた<蒼井>は、病で余命宣告を受けたのを機に、死の恐怖に襲われながらも、残された時間を職務に注ぐことを再決意するとともに、ダンサーを目指す娘<瑞希>や息子<健吾>との関係にも修復を試みます。

そんな<蒼井>に追われるのが、同じく胃癌で余命宣告を受けたデイトレーダー<榊信一>。命のタイムリミットに直面した彼はあろうことか、ずっと抑え込んできた殺人衝動に忠実に生きると決め、連続殺人に手を染めていきます。

余命宣告を受けた者同士でありながら、命との向き合い方も、悟った使命も相反する<蒼井>と<榊>。2人は駆け引きを交錯させながら、スリリングな追走劇を展開していきます。そんな中、2人の「人生」を司る過去も徐々に炙り出され、<榊>を愛する幼馴染の<山口澄乃>を巻き込み、運命は思いもよらない方向に展開していきます。
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今年の読書(36)『友罪』薬丸岳(集英社文庫)

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今年の読書(36)『友罪』薬丸...
2013年5月2日に集英社より刊行された本書『友罪』は、2014年第35回吉川英治文学新人賞候補作になっています。2015年11月20日に同じく集英社から文庫本が発行されています。

ジャーナリストにあこがれる<益田純一>27歳は、雑誌の取材方針を巡って編集者と暴力沙汰を起こしてしまい、首になり生活に困窮していました。日雇い生活を繰り返す中、社員寮のある町工場に職を得るようになります。同時期に<鈴木秀人>という同年齢の男性と共に試用期間に入った<益田>は、慣れない機械仕事に悪戦苦闘。 一方、<鈴木>は溶接などの資格を持っていて不愛想ですが即戦力ともいえる人材でした。

<益田>は中学生時代に友人がいじめを受け自死したことに、罪の意識を感じていました。 ギリギリまで友人の側にいた<益田>でしたが、最後の最後でいじめる側に回ってしまい、その直後に友人は自ら命を絶ってしまいました。 そのことから今でも友人の母のもとを訪ねたりしています。

一方の<鈴木>は、仕事からの帰り道に<達也>という男から追いかけられている工場の事務員<藤沢美代子>と出会います。 彼女はかつて<達也>に騙され、アダルトビデオに半ば強引に出演させらた過去があり、<達也>から逃れるために人目を避けるように暮らしていましたが、<達也>が見つけ出し過去のアダルトビデオ出演の件で強請りに来ていましたが、<鈴木>は<達也>を追い帰します。このことがあり、それぞれの暗い過去を持つ<美代子>と<鈴木>は気持ちを寄せ合います。

ある日、作業中に<益田>は指を切断する事故を起こし、重傷を負います。 しかし、<鈴木>の冷静な対応で、無事に縫合処置ができますが、<鈴木>は切断された指の写真を撮影していました。

入院中の<益田>の元へ<鈴木>の親戚だと名乗る<白石弥生>(矯正局の職員)が接触することにより、<益田>は<鈴木>が14年前に神戸で起こった連続児童殺害事件の犯人でないかとの疑惑を抱きます。

もともとジャーナリズム志望の<益田>は<鈴木>について調べ上げ、犯人の「少年A]であることを確信、週刊誌に暴露記事を書くのですが、本人をはじめ周囲に「少年A]であることが分かり、<鈴木>は社員寮から姿を消してしまいます。

「もしも身近にそばにいる友人が、かって重大な犯罪を起こした人物ならどうするか」という重い命題を軸に、<益田>・<美代子>・<白石>などの登場人物の視点を通して今の<鈴木>の描写が語られますが、<鈴木>自身の心情の表現はなく、読者にゆだねられています。

解説文を含め599ページという長編でしたが、残りページが近づくにつれ終結に期待が高まる一冊でした。
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今年の読書(35)『長い長い殺人』宮部みゆき(光文社文庫)

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今年の読書(35)『長い長い殺...
1987年、『我らが隣人の犯罪』でデビューした<宮部みゆき>ですが、その後、、『龍は眠る』(日本推理作家協会賞受賞)『火車』(山本周五郎賞受賞)『理由』(直木賞受賞)『模倣犯』(毎日出版文化賞特別賞受賞)などのミステリー小説や、『本所深川ふしぎ草紙』(吉川英治文学新人賞受賞)『ぼんくら』などの時代小説で人気作家となっていきます。

本書は1992年9月の刊行で、比較的初期の作品ですが、人気作家としての素地が垣間見れる内容でした。

本書は10編の連作短編とエピローグから構成されていて、物語の語り手は、登場する人物の「財布」です。それぞれの「サイフ」には、人間並みの地力があり、張力と視力を備えていて、保険金目当ての交換殺人かと思わせる事件に巻き込まれた10人が持つ財布の視点から語られる10篇の物語が次第に繋がっていき、登場人物の人間模様と事件の真相が描かれていく形になっています。

犯人像の性格描写にも「財布」が用いられ、「合皮でできた財布でありながら、自分は本革だと勘違いしている」には、納得してしまいました。
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今年の読書(34)『真実の檻』下村敦史(角川文庫)

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今年の読書(34)『真実の檻』...
乳がんで亡くなった母の遺品を整理していた大学生の<石黒洋平>は、押し入れの天井裏に隠されていた手紙と写真を見つけ出し、自分が殺人事件で死刑判決を受けている元検察官<赤嶺信勝>の息子だと知ってしまいます。

犯罪者の息子であると苦悩する<洋平>ですが、まだ死刑が実行されていないということで、実父は冤罪ではないかとの可能性をかけて、冤罪を主体に活動している雑誌記者<夏木涼子>を訪問、二人して事件の再調査に乗り出します。

二人の調査にからめ、弁護士活動の実態、冤罪事件や現在の司法の状況、警察署の留置所を監獄に代用できる「代用監獄」問題などの問題点が丁寧に取り上げられ、人はいかにして罪に落されていくのかが克明に描かれていきます。

読み手をハラハラさせる事件の進展に、事件の真実は?真犯人は?
<洋平>の身の振り方に一抹の未来を託された感じで、物語は終わります。
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