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詩は元気です ☆ 齋藤純二

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忘れないで

thread
小さな風をおこし
君は走りぬけてゆく
その無邪気な微笑みと
まっすぐな瞳を忘れないで

自由な翼が折れて飛べなくなっても
君の澄んだ想像力さえあれば
目的地にたどり着くからだいじょうぶ

君は素晴らしい
微笑みの持ち主だから

君はやさしい
こころの持ち主だから

どうか
その瞳の輝きを忘れないで

#詩

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秋のパァッカ、パァッカ

thread
枯れ葉が舞って
秋のパァッカ、パァッカ

プルッ、プルッ
プルップ、プルッ

大げさな句読点の鼻
ふくらませては得意げだ

潤んだ瞳に誘われ
たてがみあたりを叩いてやった
彼は喜んでいるのか

プルップ、プルッ

たぶん
そういうことだと思う

憧れへ進み続ける走りは
風景にしっくりと染まりながら
秋を心地よく感じさせてくれる

すこしくらいバランスを崩しても大丈夫
信頼という安心があるから

パァッカ、パァッカ
枯葉は舞い僕は微笑みながら

パァッカ、パァッカ
彼の幸せも弾んでは伝わってくる

さあ、もっと先へ
どこまでも、どこまでも、どこまでも
走っていいんだよ

#詩

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壮大性理論Ⅱ 『俺たちのルーツ編』

thread
えっ
生命の誕生が地球からでなく
彗星からだって

宇宙の博士さん
今日の講義もぶっ飛んでいるなあ
俺たちの祖先は海からだと思っていたけど
どうもそれは違うという理論が有力らしいよ

それがさあ
時速60,000キロで太陽系の果てから
飛んでくる彗星に俺たちの起源があるらしいよ
もう
なんてこと言っているんだよ博士!
そんな感じで聴いていたんだけどさ

まず
60,000キロの速さってどんなの?
スペースシャトルが28,000キロっていうから
うーん
全然わからないくらい速いってことだね
それで
どうして太陽系運動会で一等賞の彗星が
俺たちの起源と結びつくんだよ
あまり嘘っぽいこと博士が言うから
この講義をBGMに寝てしまおう
そんな衝動に駆られたんだ
だけど
どんな風に博士が作り話を続けるのか
興味があったからけっきょく
全部聴いたんだけどね

講義には人間って凄いなあ
そう思える話しもあってさ
その超高速の彗星に人工衛星を着地させ
吹っ飛ばされないようにしながら
情報を地球へ送ったりするんだって
やっぱり人間のやることもなかなか凄いじゃん

それでね
この理論の裏付けとなる物質があってさ
それが
彗星から確認されたアミノ酸ってわけだ
これはね
地球にあるアミノ酸が彗星にもあるってことは
彗星が地球に衝突したから
生命の起源に必須なアミノ酸は彗星から来たという
仮説が立てられるわけさ
ふふん
今の俺
博士っぽく語っていたでしょ
もうこの辺の話しになったら
こりゃ博士の作り話ではなさそうだ
そんな感じで耳はダンボになっていたよ

そして
この起源の理論は研究者の中では
けっこうスタンダードらしいよ

凄いじゃん
人間
俺達ってさ
地球人?
彗星人?
う〜ん
じゃあ彗星と地球のハーフなのかい
なんか今までの地球人という括りすらなくなっちゃって
こうなるとさあ
肌の色や生まれた場所くらいで差別する
人種差別なんてなくなるんじゃないか
ねえ
そうだろ
俺たちみんな太陽系の雑種なんだからさ

それにしても博士って
彗星ぐらいぶっ飛んでるよなあ
想像も出来ないことばかり
掘り出して行くんだからさ
スケールがデカ過ぎの話で
俺も今回ばかりはぶっ飛んだよ

ほんとうに
今回の講義は最高だったよ
俺の成績の悪さなんて関係ないってくらい
ぶっ飛んでいたよ

えっ
レポート?
もちろん出すよ!

#詩

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風に吹かれ

thread
風に吹かれ

よく詩に出てくるフレーズ
同じ言葉を綴ってもひとそれぞれの
風への趣きには違いがあり
感受性にも違いがある

風の中へ
僕がやさしく手をさしのべ
エスコートをしているだろうか

風に魅力があり
退屈をさせてはいないだろうか

風には哀愁があり
独自の世界を創っているだろうか

その風の中で
君の喜びを満たすことができるだろうか

#詩

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葉蓋点前

thread
タンㅤタン
タン
タンㅤタンㅤタン

水指に萩の緑が艶る
柄杓の背で水面を掃き
清らかな水を釜へ垂らせば
一掃した日常を
色づけてゆく雨の音

シャッㅤシャッㅤシャッ
シャッㅤシャッㅤシャッ

茶筅通しは
ゆっくりと ゆっくりと
水に馴染む音
侘び寂びの扉は開かれる

炭から奏でる練香の
昔々に遡る喜び

床(とこ)の額紫陽花
今の色
梅雨を楽しむ雲心地

抹茶を溶く器に
浅葱色の薄手
金継ぎされた青磁平茶碗
受け継がれる茶の精神
砕けても七転び八起き

茶碗をまわし
無地にもある表裏
弧を描き
静かに飾る顔合わせ

正客様
一服
目を閉じ
味わう時の旅

梅雨良しとㅤ語り繋げよㅤかたつむり

結構なお点前で

夏釜の広き蓋
閉じる扉は少し開けたまま
湯気は雲となり雨となり
梅雨を愉しむ茶の憩い



*お点前(おてまえ)
*水指(みずさし・釜に水を足すための器・水を入れておく器)
*柄杓(ひしゃく)
*金継ぎ(きんつぎ・割れた陶器の修理を金〔接着材料〕で行う手法)

#詩

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釣られびと

thread
今夜は揺れるなあ

東京タワーのてっぺん
いつもながら座り心地が悪い
今夜も座布団を忘れる

上弦の月は
俯瞰する景色をほんのり淀ませる

何が楽しくて
光になってあっち行って
こっち行って
迂回しているのさ
そんな狭いところで
何が見えるというのかい

ストレートネックは
君たちの進化なのかい
下ばっかり見て
自然から遠ざかる変異は退化だよ
こっちの世界では
笑われているぞ
デジ小僧って

さてさて
今夜は何を釣ろう

そうだな
名誉を餌に
勘違いなヤツでも釣ろうか

それとも
ダイヤモンドを餌に
空っぽのヤツでも釣ろうか

そうだ
今夜は幸せを餌に
不幸なヤツでも釣ろう

うん
そうしよう

幸せを餌に釣糸を垂らす

ああ
なんだよ
今夜は全く餌に喰いつかない

そんな訳はないはず
地上を這って生きているヤツらが
幸せなわけがない

受験では失敗し
安給料でいつも腹減っていて
きれいなお姉さんに声かけシカトされ
怪我して身体の調子が悪くて

かつての俺のように
不幸なヤツばかり
地上にはいるはずだ

なぜ
釣れない

俺の作った疑似餌が悪いのかい
かなり完成度の高い餌ができたはずなのに

俺のクオリティが下がっちゃった?

まあ
いいや

他の餌で
笑えるヤツを釣ろう


あれっ

なんだこれ

目の前に湯気を出したコロッケが登場

うーん
これは
俺が地上で子どもをしていた時
母さんが作ってくれたコロッケに間違いない
この香り
この形
この色

ああ
あの頃は
弟と鬼ごっこしていただけで
楽しかったよな

お兄ちゃん
お兄ちゃん
って
あいつも可愛かったなあ

まあ
とりあえず
このコロッケをいただくとするか

いただきまーす


ウオッー

引っ張られてるー

いったい何が起きたんだー


あらっ
釣れたみたい
不幸な男

こいつ
どんだけ不幸な顔しているのよ

気持ち悪る〜

逃そう
っと

さよなら〜

ああ
メチャ
気持ち悪る〜

やっぱり
不幸な男
って
最低〜

#詩

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姥捨街

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立ち竦む私

顎から
指先から
垂れる滴はやがて繋がる
カラダが漏斗になり
その垂直な流れは水溜りをなす
表面張力を超えて無意味に拡がる
流れ着く果ては
水かさが一向に増えぬ海への虚しさ

止まぬ雨の中
私の絶望と真逆に向かう母が行く
雨粒が曲げた腰を打つ
其処には惨めさなど無い
母の行き先は明確

足を滑らし母は蹲り
なるがままに雨に打たれている

最後の孝行と母を背負う
軽い筈のその身体
しかし
その重さに狼狽える
次第に私の器は耐えきれず
毛細血管に沿って罅(ひび)が走る

私の苦悩を察し
母は自らの足で雨に流されて行く

やがて
雨は紅く染まり
母を無いものとした



(介護疲れでの事件、自殺総数に占める高齢者の割合の上昇。行き届かぬ福利、行き届かぬ精神)

#詩

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俯瞰座禅儀(ふかんざぜんぎ)

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邪念ㅤ邪念 ㅤ邪念
邪念を渡る橋はなく
立ち止っては孤立無援(こりつむえん)

ならば
此処に坐り

消せぬ己の鬼
対峙の恐れに臨(のぞ)めば
ありのままの己に習う

己を観ずにひとは観えず
舞うひとを観て己は観えず
己を観入ってひとを観る

ただ
此処に坐り
己の仏を掌(てのひら)に
命脈を保ち心身脱落

浄土に坐る蕾ひとつ
救い手の花びら八方開き
自由を齎(もたら)し悟りの一輪

此処に坐り
己を照らし世を照らす
禅の道は浄土への道



孤立無援 / 三省堂・実用日本語表現辞典より引用
…仲間・味方だれもおらず、助ける者もいないさま。自分だけで戦う様子。

心身脱落 / 三省堂・実用日本語表現辞典より引用
…道元の用語。身と心の束縛から自由になり、真に無我になりきった悟りの状態。

#詩

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ゆとりある寝坊

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とても明るい

いつもの朝だというのに
あれっ、家族がみんな起きている
んっ、こりゃ寝坊か

目覚ましのアラームが鳴る前に
起きるようになり数年が経っていた
時間をセットしない日もちらほろ

油断の隙に躓いてしまった

いやいや、それでも遅刻はしない
いつも職場にはかなり早く着いている
寝坊を一時間しても大丈夫

なんせ、歳を重ねるたびに
何事にも咄嗟には動けなくなるから
早め早めの行動をするようになる

しかも、眠りの質がおちて
浅い眠りと早起きが進んでしまうのだから
疲れはたまっていく一方だ

今回の寝坊はよく眠れたということで
たまにはいいじゃないかと納得

そして、慌てるほどの寝坊でなければ
ちょっとしたイベントでいいもんだ

ひとりでの朝ごはんの静けさもなく
そこには朝の賑やかさがあり
子どもらがあれがない、これがないと
朝らしい朝は活気があった

仕事の下準備ができないのは
気持ちが落ち着かないけれども

行ってきます
行ってらっしゃい

そんな朝の始まりは
頑張っている自分への些細な見返り
だけど、大きなやる気になるのだから

明日からは三十分の寝坊をすることにしよう

#詩

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騒なき詩人(ぞめなきしじん)

thread
人が見る背景を消し
俗世界を脱け出す

言葉を捨て
暮らしを捨て
葷酒(くんしゅ)山門に入るを許さず
煤けた馴れ合いの衣を剥ぎ取り
裸の表現者に微塵の躊躇はなし

芸術の道具など要らない
言葉以前の世界で叫びの匂いを感じ
赤子になった全身からは唸りだけが発する

空間の揺さぶる振動は魂を燃やし
塵灰(じんかい)となった生き様
その浮遊した足掻きは風に飛ばされ
詩人は跡形もなく歌い切る




葷酒山門に〜
…葷酒は、心を乱し修行の妨げになるので、寺の門内に持ち込むことは許さない。禅寺の山門の脇の戒壇石に刻まれる言葉。(デジタル大辞典引用)

葷酒
…仏教用語。葷と酒のこと。葷とはねぎの類に属する植物をいい,これらは刺激性が強く臭気があるため,酒と同様に仏教の出家修行者には禁じられている。
(コトバンク引用)

#詩

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