小さな風をおこし 君は走りぬけてゆく その無邪気な微笑みと まっすぐな瞳を忘れないで 自由な翼が折れて飛べなくなっても 君の澄んだ想像力さえあれば 目的地にたどり着くからだいじょうぶ 君は素晴らしい 微笑みの持ち主だから 君はやさしい こころの持ち主だから どうか その瞳の輝きを忘れないで
枯れ葉が舞って 秋のパァッカ、パァッカ プルッ、プルッ プルップ、プルッ 大げさな句読点の鼻 ふくらませては得意げだ 潤んだ瞳に誘われ たてがみあたりを叩いてやった 彼は喜んでいるのか プルップ、プルッ たぶん そういうことだと思う 憧れへ進み続ける走りは 風景にしっくりと染まりながら 秋を心地よく感じさせてくれる すこしくらいバランスを崩しても大丈夫 信頼という安心があるから パァッカ、パァッカ 枯葉は舞い僕は微笑みながら パァッカ、パァッカ 彼の幸せも弾んでは伝わってくる さあ、もっと先へ どこまでも、どこまでも、どこまでも 走っていいんだよ
えっ 生命の誕生が地球からでなく 彗星からだって 宇宙の博士さん 今日の講義もぶっ飛んでいるなあ 俺たちの祖先は海からだと思っていたけど どうもそれは違うという理論が有力らしいよ それがさあ 時速60,000キロで太陽系の果てから 飛んでくる彗星に俺たちの起源があるらしいよ もう なんてこと言っているんだよ博士! そんな感じで聴いていたんだけどさ まず 60,000キロの速さってどんなの? スペースシャトルが28,000キロっていうから うーん 全然わからないくらい速いってことだね それで どうして太陽系運動会で一等賞の彗星が 俺たちの起源と結びつくんだよ あまり嘘っぽいこと博士が言うから この講義をBGMに寝てしまおう そんな衝動に駆られたんだ だけど どんな風に博士が作り話を続けるのか 興味があったからけっきょく 全部聴いたんだけどね 講義には人間って凄いなあ そう思える話しもあってさ その超高速の彗星に人工衛星を着地させ 吹っ飛ばされないようにしながら 情報を地球へ送ったりするんだって やっぱり人間のやることもなかなか凄いじゃん それでね この理論の裏付けとなる物質があってさ それが 彗星から確認されたアミノ酸ってわけだ これはね 地球にあるアミノ酸が彗星にもあるってことは 彗星が地球に衝突したから 生命の起源に必須なアミノ酸は彗星から来たという 仮説が立てられるわけさ ふふん 今の俺 博士っぽく語っていたでしょ もうこの辺の話しになったら こりゃ博士の作り話ではなさそうだ そんな感じで耳はダンボになっていたよ そして この起源の理論は研究者の中では けっこうスタンダードらしいよ 凄いじゃん 人間 俺達ってさ 地球人? 彗星人? う〜ん じゃあ彗星と地球のハーフなのかい なんか今までの地球人という括りすらなくなっちゃって こうなるとさあ 肌の色や生まれた場所くらいで差別する 人種差別なんてなくなるんじゃないか ねえ そうだろ 俺たちみんな太陽系の雑種なんだからさ それにしても博士って 彗星ぐらいぶっ飛んでるよなあ 想像も出来ないことばかり 掘り出して行くんだからさ スケールがデカ過ぎの話で 俺も今回ばかりはぶっ飛んだよ ほんとうに 今回の講義は最高だったよ 俺の成績の悪さなんて関係ないってくらい ぶっ飛んでいたよ えっ レポート? もちろん出すよ!
風に吹かれ よく詩に出てくるフレーズ 同じ言葉を綴ってもひとそれぞれの 風への趣きには違いがあり 感受性にも違いがある 風の中へ 僕がやさしく手をさしのべ エスコートをしているだろうか 風に魅力があり 退屈をさせてはいないだろうか 風には哀愁があり 独自の世界を創っているだろうか その風の中で 君の喜びを満たすことができるだろうか
タンㅤタン タン タンㅤタンㅤタン 水指に萩の緑が艶る 柄杓の背で水面を掃き 清らかな水を釜へ垂らせば 一掃した日常を 色づけてゆく雨の音 シャッㅤシャッㅤシャッ シャッㅤシャッㅤシャッ 茶筅通しは ゆっくりと ゆっくりと 水に馴染む音 侘び寂びの扉は開かれる 炭から奏でる練香の 昔々に遡る喜び 床(とこ)の額紫陽花 今の色 梅雨を楽しむ雲心地 抹茶を溶く器に 浅葱色の薄手 金継ぎされた青磁平茶碗 受け継がれる茶の精神 砕けても七転び八起き 茶碗をまわし 無地にもある表裏 弧を描き 静かに飾る顔合わせ 正客様 一服 目を閉じ 味わう時の旅 梅雨良しとㅤ語り繋げよㅤかたつむり 結構なお点前で 夏釜の広き蓋 閉じる扉は少し開けたまま 湯気は雲となり雨となり 梅雨を愉しむ茶の憩い *お点前(おてまえ) *水指(みずさし・釜に水を足すための器・水を入れておく器) *柄杓(ひしゃく) *金継ぎ(きんつぎ・割れた陶器の修理を金〔接着材料〕で行う手法)
今夜は揺れるなあ 東京タワーのてっぺん いつもながら座り心地が悪い 今夜も座布団を忘れる 上弦の月は 俯瞰する景色をほんのり淀ませる 何が楽しくて 光になってあっち行って こっち行って 迂回しているのさ そんな狭いところで 何が見えるというのかい ストレートネックは 君たちの進化なのかい 下ばっかり見て 自然から遠ざかる変異は退化だよ こっちの世界では 笑われているぞ デジ小僧って さてさて 今夜は何を釣ろう そうだな 名誉を餌に 勘違いなヤツでも釣ろうか それとも ダイヤモンドを餌に 空っぽのヤツでも釣ろうか そうだ 今夜は幸せを餌に 不幸なヤツでも釣ろう うん そうしよう 幸せを餌に釣糸を垂らす ああ なんだよ 今夜は全く餌に喰いつかない そんな訳はないはず 地上を這って生きているヤツらが 幸せなわけがない 受験では失敗し 安給料でいつも腹減っていて きれいなお姉さんに声かけシカトされ 怪我して身体の調子が悪くて かつての俺のように 不幸なヤツばかり 地上にはいるはずだ なぜ 釣れない 俺の作った疑似餌が悪いのかい かなり完成度の高い餌ができたはずなのに 俺のクオリティが下がっちゃった? まあ いいや 他の餌で 笑えるヤツを釣ろう と あれっ なんだこれ 目の前に湯気を出したコロッケが登場 うーん これは 俺が地上で子どもをしていた時 母さんが作ってくれたコロッケに間違いない この香り この形 この色 ああ あの頃は 弟と鬼ごっこしていただけで 楽しかったよな お兄ちゃん お兄ちゃん って あいつも可愛かったなあ まあ とりあえず このコロッケをいただくとするか いただきまーす ウオッー 引っ張られてるー いったい何が起きたんだー あらっ 釣れたみたい 不幸な男 こいつ どんだけ不幸な顔しているのよ 気持ち悪る〜 逃そう っと さよなら〜 ああ メチャ 気持ち悪る〜 やっぱり 不幸な男 って 最低〜
立ち竦む私 顎から 指先から 垂れる滴はやがて繋がる カラダが漏斗になり その垂直な流れは水溜りをなす 表面張力を超えて無意味に拡がる 流れ着く果ては 水かさが一向に増えぬ海への虚しさ 止まぬ雨の中 私の絶望と真逆に向かう母が行く 雨粒が曲げた腰を打つ 其処には惨めさなど無い 母の行き先は明確 足を滑らし母は蹲り なるがままに雨に打たれている 最後の孝行と母を背負う 軽い筈のその身体 しかし その重さに狼狽える 次第に私の器は耐えきれず 毛細血管に沿って罅(ひび)が走る 私の苦悩を察し 母は自らの足で雨に流されて行く やがて 雨は紅く染まり 母を無いものとした (介護疲れでの事件、自殺総数に占める高齢者の割合の上昇。行き届かぬ福利、行き届かぬ精神)
邪念ㅤ邪念 ㅤ邪念 邪念を渡る橋はなく 立ち止っては孤立無援(こりつむえん) ならば 此処に坐り 消せぬ己の鬼 対峙の恐れに臨(のぞ)めば ありのままの己に習う 己を観ずにひとは観えず 舞うひとを観て己は観えず 己を観入ってひとを観る ただ 此処に坐り 己の仏を掌(てのひら)に 命脈を保ち心身脱落 浄土に坐る蕾ひとつ 救い手の花びら八方開き 自由を齎(もたら)し悟りの一輪 此処に坐り 己を照らし世を照らす 禅の道は浄土への道 孤立無援 / 三省堂・実用日本語表現辞典より引用 …仲間・味方だれもおらず、助ける者もいないさま。自分だけで戦う様子。 心身脱落 / 三省堂・実用日本語表現辞典より引用 …道元の用語。身と心の束縛から自由になり、真に無我になりきった悟りの状態。
とても明るい いつもの朝だというのに あれっ、家族がみんな起きている んっ、こりゃ寝坊か 目覚ましのアラームが鳴る前に 起きるようになり数年が経っていた 時間をセットしない日もちらほろ 油断の隙に躓いてしまった いやいや、それでも遅刻はしない いつも職場にはかなり早く着いている 寝坊を一時間しても大丈夫 なんせ、歳を重ねるたびに 何事にも咄嗟には動けなくなるから 早め早めの行動をするようになる しかも、眠りの質がおちて 浅い眠りと早起きが進んでしまうのだから 疲れはたまっていく一方だ 今回の寝坊はよく眠れたということで たまにはいいじゃないかと納得 そして、慌てるほどの寝坊でなければ ちょっとしたイベントでいいもんだ ひとりでの朝ごはんの静けさもなく そこには朝の賑やかさがあり 子どもらがあれがない、これがないと 朝らしい朝は活気があった 仕事の下準備ができないのは 気持ちが落ち着かないけれども 行ってきます 行ってらっしゃい そんな朝の始まりは 頑張っている自分への些細な見返り だけど、大きなやる気になるのだから 明日からは三十分の寝坊をすることにしよう
人が見る背景を消し 俗世界を脱け出す 言葉を捨て 暮らしを捨て 葷酒(くんしゅ)山門に入るを許さず 煤けた馴れ合いの衣を剥ぎ取り 裸の表現者に微塵の躊躇はなし 芸術の道具など要らない 言葉以前の世界で叫びの匂いを感じ 赤子になった全身からは唸りだけが発する 空間の揺さぶる振動は魂を燃やし 塵灰(じんかい)となった生き様 その浮遊した足掻きは風に飛ばされ 詩人は跡形もなく歌い切る 葷酒山門に〜 …葷酒は、心を乱し修行の妨げになるので、寺の門内に持ち込むことは許さない。禅寺の山門の脇の戒壇石に刻まれる言葉。(デジタル大辞典引用) 葷酒 …仏教用語。葷と酒のこと。葷とはねぎの類に属する植物をいい,これらは刺激性が強く臭気があるため,酒と同様に仏教の出家修行者には禁じられている。 (コトバンク引用)