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能登半島の海岸に近い大社町で育った<僕=高木悠司>は、17年前の中学2年生の時に、同級生の<江上理沙>が突然神隠しにでもあったように行方不明になった事件を経験しています。
東京の大学を卒業して入社した出版社は倒産、先輩の口利きでオカルト雑誌を発行している<マアジナル社>に勤め出しますが、UFOに絡む患者たちに興味を持つ精神科医<木部直樹>からのメールを受け取ります。
上司の<岡田淳子>の命で急きょ取材として能登に出向くのですが、かっての同級生6人がUFOを呼び寄せたことにより、それぞれ6人の数奇な人生が語られていきます。
古代神話・天文学・哲学・物理・数学・精神医学・UFO等の幅広い分野の知識を散りばめたファンタジー物語として、最後まで<江上理沙>がどうなっているのかを引きずりながら、最後の4行で「なるほど」と肩の力が抜ける壮大な物語が楽しめました。
読み終った読者の多くが、<ケヴイン・クライン>が主演した大統領の替え玉話をコメディに描いたアメリカ映画の『デーブ』(1993年)を、思い出したのではないでしょうか。
売れない役者の<加納慎策>は、国民党総裁<真垣統一郎>と瓜二つで、舞台の前座として総理の物真似で人気を得ていました。
そんなある日<慎策>は見知らぬ男たちに拉致され、総理官邸に連れて行かれますが、そこで内閣官房長官の<樽見>から、総理が病気で入院、彼の替え玉役を引き受けさせられます。
まったくの素人として政治の世界に飛び込んだ<慎策>が見たモノは、国民の生活を無視した不条理な現実ばかりでした。
熱血漢あふれる<慎策>は、<樽見>の指示を仰ぎながら政治・経済問題を処理していきますが、<真垣>が亡くなり、やがて<樽見>も心筋梗塞で亡くなってしまいます。
絶体絶命の窮地のなか、アルジェリアの日本大使館がテロ組織に占拠され、<慎策>はひとりで解決していかなければなりません。
非常にわかりやすく国会や議員の現状が描かれていると共に、日本の問題点を克明に描き出しながら、ユーモアあふれる構成で、ときに涙させる場面も多々あり、面白く楽しめた一冊でした。
副題の「警視庁情報分析支援第二室<裏店>」は、迷宮入りした事件の資料が捜査継続中という名目のもと各地から送られてくる部署で、そこには変人キャリアの<安孫子>警視正ただひとりが所属している部署です。
本書は 『炎上』 に次ぐ<安孫子>を主人公とする第二冊目に当たり、五つの事件が収録されています。
相も変わらず尊大で気難しく、誰に対しても無礼な命令口調で、しかも面と向かって相手に言い続ける態度には、閉口させられます。
また職務そっちのけで日夜、怪しい研究実験を<裏店>で行っていますが、一度事件に首を突っ込みますと、あざやかな推理で事件を解決してゆく手際の良さを見せつけてくれます。
憎めないキャラクターとして、これからシリーズ化されていきそうな<安孫子>警視正の事件簿として、小気味よい文章で楽しめました。
<新・古着屋総兵衛>シリーズとして、前作第8巻目の 『安南から刺客』 に次ぐ、第9巻目が本書です。
前作で江戸に戻った<大黒屋総兵衛>は、川を挟んだ向かい側の炭問屋「栄屋」の屋敷を買い取り、古着市の会場に使う算段をしながら、橋の架け替えに乗じて二つの屋敷を繋ぐ秘密の通路の算段を進めていました。
そんな折、大目付<本庄義親>邸に赴いた際、居候をしている浮世絵師<北川歌麿>なる人物を紹介されます。屋敷から帰宅中に<総兵衛>は、<歌麿>と間違われ、何者かに襲われます。
橋の架け替え工事が進むなか、江戸に未曾有の野分(台風)が襲い、江戸の町は大被害を受けてしまいます。
町の復旧に奔走する<総兵衛>ですが、<歌麿>が将軍<家斉>を揶揄するような浮世絵を描いているとの知らせを受け、関わった<本庄>の身を案じ、<歌麿>を探し出すべく「影」として動き出します。
実在の浮世絵師<歌麿>を物語にうまく取り込みながら、幕府の「影」としての裏の貌の活躍で、無事に事なきを得た<総兵衛>でした。
<新・古着屋総兵衛>シリーズとして、第一巻の 『血に非ず』 に始まり、長年の宿敵薩摩藩との和睦が進んだ第七巻の 『二都騒乱』 まで読み続けています。
人気作家のシリーズですので、書店で急に入手できないことはないと安心していますが、ようやく第八巻目として読みつなぎました。
京都に出向いていた<大黒屋総兵衛>一行は、七か月ぶりに江戸へ戻ってきました。
戻り次第< 総兵衛>は、川を挟んで向かい側にある破産寸前の炭問屋の屋敷を買い取り古着市の会場として利用することを考えながら、本店の大黒屋と地下通路で行き来できるようにと、石工の<魚吉>に算段を考えさせます。
3月に始まる古着市の準備の最中、<糸屋染左衛門>に反発する同業者二人が刺殺され、<総兵衛>は古着市を攪乱させる一派のことをで悩んでいましたが、どうやら自分自身の出身地である安南政庁からの刺客の存在を確認、新たな強敵に立ち向かわざるを得なくなります。
安南に「イマサカ号」や「大黒丸」が交易のために出向いたままですが、まだまだ続くシリーズですので、のんびりと読み続けたいと考えています。
本書は、(集英社文庫)として前作の 『マスカレード・ホテル』 に次ぐオリジナル文庫本です。
中短篇4篇が収められていますが、「ホテル・コルテシア東京」のフロントクラークとして勤め始めた<山岸尚美>を主人公とする『それぞれの仮面』や『仮面と覆面』、警視庁の捜査一課の新米刑事として上司の<本宮>と組み、捜査のイロハを身に着けていく<新田>刑事を主人公とする『ルーキー登場』、そして本書のタイトルにもなっている『マスカレード・イブ』は、<山岸>も経験を重ね、新しく開業した「ホテル・コルテシア大阪」のフロント業務の教育に派遣され、<新田>刑事は所轄の生活安全課勤務の<穂積里沙>と組んで、大学教授の殺人事件の捜査を担当しています。
時系列的には前作 『マスカレード・ホテル』に登場する<山岸>と<新田>の新人時代が描かれており、最後のエピローグは 『マスカレード・ホテル』の事件につながる伏線として、前作を読んだ読者は「ニンマリ」とする終わり方でした。
本書は2013年上半期・第149回の「直木賞」受賞作品です。
短篇7篇が収められており、北海道の釧路湿原を見下ろす場所に建つラブホテル「ホテルロイヤル」を舞台として、ホテルの経営者、その家族、従業員、出入り業者、そしてホテルを利用する男女に繰り広げられる心の機微を、鮮やかに描き出しています。
あまり小説の舞台として登場しないラブホテルだとおもいますが、裏通りにひっそりと建つ非日常的な空間に身をおく登場人物たちの心のさまを、無駄のない的確な文章で紡ぎ出し、生活感あふれる登場人物たちを語り繋いでいきます。
短篇7篇は、時系列的に現在から過去にさかのぼり、読者は廃墟のホテルの場面からホテル建設の背景まで辿る7篇が見事に連続する構成力に、筆者の並々ならぬ力量がうかがえます。
タイトルの『ぬけまいる』は、江戸時代に伊勢神宮に雇い人や家族に断りもなく参拝しても、お咎めが無かった「抜け詣り」(御蔭詣り)から付けられています。
登場するは、若い頃に「馬喰町の猪鹿蝶」と呼ばれた28歳の、<お以乃>、<お志花>、<お蝶>という江戸娘三人組です。
それぞれに個人の悩みを持ち鬱積した日々を重ねていた三人は、突然仕事も家庭も掘り出して「お伊勢参り」に繰り出し、その珍道中が描かれています。
女性の江戸時代を背景とした道中記は珍しく、読みながら<田辺聖子>の 『姥ざかり花の』 を思い浮かべていました。
道中の背景は、当時(1845年:弘化2年)の史実に基づき綿密ですし、植木職人の世界を描いた 『ちゃんちゃら』 や、植物学者<シーボルト>を描いた 『先生のお庭番』 など植物の世界にも造詣が深い著者で、江戸時代に流行した「変化朝顔」などの話題も登場、なかなか楽しめました。
1997年『蒼龍』で「オール読物新人賞」を受賞して作家デビュー、2002年『あかね空』で「第126回直木三十五賞」を射とめている著者です。
本書は二部に分かれており、第一章は『天理時報』(天理教道友社)、第二章は『時字随想』(読売新聞)と『1194』(三井ビルテクノサービス)に書かれたエッセイ集です。
数多くの転職経験のある著者が、まっとうな大人の振る舞いを説いていますが、どれも心優しい目線を感じる内容です。
特に市井で細々と商売をされている、中華料理屋「来々軒」や市場の肉屋さん、アサリ売りのお婆ちゃん、蕎麦屋の店員さん、熱海の食堂の女将さんなどの逸話は、庶民派のエッセイとして心に残り、ホッコリとした気分にさせてくれます。
副題として<県警捜査一課・城取圭輔>とあり、また長野県警があまり小説には登場しない舞台設定ということで読んでみました。
事件は長野県庁で行われてた県会の定例議会中に停電が起こり、演説中の議員が射殺されますが、閉鎖された議場と傍聴席の中での事件だけに逃げた者もおらず、また凶器も発見されません。
議会開会前に県知事に不可解な短歌のメールが届きますが、同じ内容のメッセージが、射殺された議員のポケットからも発見され、<城取>は捜査を始めます。
<城取>は過去にパチンコ店強盗事件犯として検挙した<竹内>が、冤罪ではないかとの不安を持っています。今回の事件も、その彼がアリバイに使った善光寺の本尊に絡む宗教や歴史的記述が多く、正直ミステリーに必要な内容だとはおもえず、また犯人の動機自体もどうかなという設定でした。
善光寺の歴史性を楽しむにはいいかもしれませんが、刑事を主人公に据えた小説としては、評価できる内容ではありませんでした。
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