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フィリピンから日本に嫁いできた<エテル>は32歳、<テルちゃん>と呼ばれています。
20歳ほど年上の<安雄>と結婚して<安則>という男の子が生まれましたが、<安雄>は2年ばかりで急死、<テルちゃん>は実家に戻らず、80歳の義母の面倒を見続けています。
<安雄>の弟<健志>と<玲子>夫婦には子供がいませんが、夫婦共働きであまり義母の面倒が見れないなか、けなげに介護する<テルちゃん>に心苦しい日々を送っています。
本書には3篇が納められており、<テルちゃん>の前向きな明るい人柄がほのぼのと描かれ、またお寺の和尚さんが出てきますが著者自らが住職であることもあり、それとなく人生論をはめ込みながらの構成で、日本人が忘れてしまった家族像が見事に描かれている一冊でした。
銀行の現金強奪事件に絡んで、行員の男性が犯人にゴルフクラブで殴られて植物人間に陥り、<八木>刑事は犯人を目撃していると考えて植物状態から抜け出した患者のことを調べていく過程で、<ハヤブサ>という言葉を耳にします。
建築士の<真山慎一>は、妻<志保>が奇跡的に植物状態から意識を取り戻し、中学生の息子<倫志>との葛藤を書いた本を出版、ノンフィクションライターとして活躍しています。友人の新聞記者<辻谷>から、一日で戻ってくる子供の誘拐事件が全国的に11件も発生しているという情報をもとに調査を進める過程で、<ハヤブサ>という名前が耳に残ります。
<倫志>は、「森林天文台クラブ」に所属しており、徹夜での観測も当たり前ですが、ふと<慎一>は、誘拐事件の発生と<倫志>の天文台での宿泊日が重なっていることに気が付きます。
<慎一>が息子<倫志>をはじめ、子供たちが持つ特殊な能力にたどり着いた時、爆弾テロが電車を乗っ取る事件が発生、<倫志>の仲間たちは集結して事件解決のために火中に飛び込んでいくのですが、これから先の展開はぜひ本書をよんで確かめていただきたい一冊です。
繁華街から少し離れた東中野に<名登利寿司>はお店を構えられており、その女将さんが著者です。1973(昭和48)年にお店を開店されて以来、ご夫婦で歴史を積み重ねられてきています。
以前に読んだ『寿司屋のかみさんうちあけ話』が、お寿司屋さんの裏話などが満載で楽しく読め、その後たくさんの書籍が出ているようで、本書は(講談社文庫)として6冊目に当たります。
一年を通して、「春・夏・秋・冬」の季節ごとに章が設けられており、それぞれの旬の素材や、お客さんとの交流を通して感じたこと、朝ご飯のまかない料理や店じまい後の夫との晩酌の会話などが、女将さんの目線で楽しく綴られています。
巻頭にはやさしそうなご主人がカラーページで登場、一度は足を運びたくなる<名登利寿司>の人気の秘密が、ほのぼのと伝わる一冊でした。
すでに角川文庫で<自衛隊>シリーズとして『空の中』・ 『海の底』 と作品が刊行されていますが、本書『塩の街』が<有川浩>の作家デビュー作になり、また<自衛隊>シリーズの第1作目となります。
近未来小説として、宇宙から飛来した塩の結晶が隕石群となり「それを見た」者が、塩の柱となり命を落とす現象が地球全体を襲いますが、それぞれの登場人物たちの「愛」を中心とした物語として構成されています。
18歳の<小笠原真奈>は、東京湾の埋め立て地に落ちが巨大なしをの結晶で両親を亡くし、スラムと化した街で暴漢に襲われますが、航空自衛隊のパイロット<秋庭高範>に助けられ、同居生活を送っていますが、いつしか10歳年上の彼に恋心を抱いてしまいます。
本書は『塩の街』と『塩の街、その後』の二部構成で全10章ありますが、一つ一つがそれぞれの章にリンクしていて面白く読み終えられ、今後の活躍が期待できる完成度です。
本書は、2006年『沖で待つ』で第134回芥川賞を受賞している著者が、自ら調理するB級グルメの奮闘エッセイー集で、笑えました。
東京を離れ、群馬県高崎市に移り住んでいる著者ですが、車で15分かかるスーパーマーケットで食材を揃え、「現直」(現地で直接販売している野菜類)を手に入り、一人暮らしのキッチンで試行錯誤をしながらの料理が、楽しくもあり、ときに哀切を感じさせます。
初出は『Hanako』ですので、女性向けの料理エッセイというのも面白く、また文章も著者の人柄がよく出ていると感じました。
たとえば、副題にもなっている「豚キムチにジンクスはあるのか」の文中の表現として<・・・しかも嫌な世間を忘れられ空前絶後百鬼夜行天網恢恢疎にして漏らさずスーパーエコノミカルグレイテイストリミテッドなおすすめ料理、それはずばり豚キムチです>などは、さすが文学者的表現で説得力があります。
タイトルそのものが、本書の内容を表していますが、主人公<高田友恵(トモ)>は、実家を離れ神奈川の獣医大学の新入生として下宿生活を始めます。
女らしい姉に対抗するべく好きな動物の勉強ができる学科を選び、ひとつのことをやりとげるべく空手道部に入部します。
学科の仲間との付き合い、呑み会を通して付き合いあ出した<築山楓>との恋と失恋、空手部の同期の退部、食肉のためだけに飼育される「産業動物」や「フリーマーチン」といった雌牛の現状等、キャンパスライフの青春小説だけに終わらず、獣医学生としての悩みも散りばめられています。
著者自身が獣医学部に在籍、空手道部に入部しているという実体験が<トモ>と重なり合い、自伝的要素もあるようで面白く読み終えれました。
男女とも平均寿命が延び、超高齢社会になりつつある日本ですが、「実るほど頭を垂れる稲穂かな」と思われる人物が少なくなってきていると感じます。
この『老いの才覚』も、そのような世間の風潮に釘指す指導書として、自立した老人としての心構えについての意見が、全8章の構成で述べられています。
<曽野綾子>氏いわく、「老いの才覚」=「老いる力を持つことが重要」ということで、
1.「自立」と「自律」の力
2. 死ぬまで働く力
3. 夫婦・子供と付き合う力
4. お金に困らない力
5. 孤独と付き合い。人生を面白がる力
6. 老い、病気、死と馴れ親しむ力
7. 神さまの視点を持つ力 等7つを指摘されています。
80歳を超えられた著者自身が後期高齢者の立場ですので、説得力ある内容に共感を覚えました。
植物好きとして<ファルコン植物記>を日課のごとくシリーズ化していますので、本書を見つけたときは、嬉しくなりました。
本書は1940(昭和15)年に<柳田>自身の装丁で刊行されていますが、<柳田>が逝去(1992年8月8日)した同年(昭和37)年9月に角川文庫版が出ています。
「野草・野鳥」とも、民俗学者の肩をこるような学術論文ではなく、それと正反対の<雑記>という散文形式で、著者の細やかな作業が伝わる内容です。
身近な「タンポポ」や「ツクシ」・「ペンペングサ」等の地域による名称の違い、「百舌」や「時鳥」・「郭公」・「雀」といった身近な鳥たちの民族的な意味合いなど、興味ある話題が楽しめた一冊でした。
本書には表題作の『おちゃっぴい』を含め、江戸の下町を舞台とした6篇の物語が納められています。
「おちゃっぴい」とはおてんば娘を指す言い方で、札差業の「駿河屋」の16歳の娘<お吉>のことで、父から薦めらえた21歳の手代<惣助>との縁談に逆らって家を飛び出したものの、偶然出会った絵師の<菊川英泉>の諭しに実家に帰ります。
「甚助店」に住む浪人<花井久四郎・みゆき>夫婦と、長屋の住人との心温まる日常生活、薬種問屋「丁子屋」の倅<菊次郎>が憧れる5歳年上の女筆指南<お龍>とのいきさつなど、なぜか憎めない登場人物たちの喜怒哀楽が、見事に描かれている一冊でした。
本書でも、『天女湯おれん』 (諸田玲子)に登場する「銭湯」の2階の男たちの団欒の場が、江戸庶民の交流の場として一役かっていました。
本書は、副題に<警視庁捜査一課・貴島柊志>とあるように、殺人事件を捜査するミステリーものです。
冒頭は5歳の少女<里見悦子>の身の回りに起こった姪<アイ>の池での水死事件や、その母親である叔母も同じ池で水死する回想から導入部分は始まります。
忌まわしい事件から17年経った<悦子>は、「日本ミステリー大賞」を受賞、受賞後第一作目の作品『ミラージュ』を発表する寸前、仕事場のマンションの密室で刺殺死体として発見されますが、関係者には皆アリバイが成立しています。
その後<悦子>の原稿担当者の<的場武彦>が突然行方不明になり、<悦子>の母親<里中充子>も自宅で刺殺死体で発見され、事件は複雑さを増していきます。
「鏡」を一つのアイテムとして作品のなかで生かし、読者の推理を導こうとしながらも、最後のどんでん返しの構成が見事で、余韻の残るミステリーでした。
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