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2000年に『8年』で第13回小説すばる新人賞を受賞、2015年10月発刊された『Lillers』が100冊目となる多作な作家で、また2作目の『雪虫』で始まる<刑事・鳴沢了>シリーズをはじめ、<警視庁追跡調査係>シリーズや<捜査一課・澤村慶司>シリーズなど、わたしの好きな刑事物の著作も多く、なかなかすべての作品に目を通すのは大変です。
本書は 『遮断』 に続く<警視庁失踪課・高城賢吾>シリーズとしての8作目に当たります。
主人公の<高城>警部は、娘<綾菜>が7歳のときに行方不明になり、それが原因で弁護士である妻と離婚した過去があり、彼の視点から事件を克明に描く手法が取られています。
21歳の<高木>巡査が拳銃を所持しながら制服のまま交番から姿を消し、渋谷署内が騒然とするなか、失踪課のメンバーも捜査に駆り出されます。
かたやプロ球団<パイレーツ>のドラフト一位を獲得した高校球児<花井翔太>が、キャンプイン前に寮から姿を消し、<高城>は元プロ野球選手の<醍醐>巡査部長と二人だけで<花井>の行方を探す捜査に乗り出します。
事件は無事に解決しますが、捜査の過程で昔住んでいた家の近くで起こった火災現場跡から幼い女の子の白骨死体が発見され、もしや<綾菜>ではないのかと読者に匂わすところで本書は終わり、次巻を読まないとモヤモヤとした気分は一新できそうにありません。
『怪談』といえば、神戸にもゆかりのある <小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)> をおもいだします。
本書も本歌取りではありませんが、納められた6篇の物語も、『耳なし芳一』や『雪おんな』・『ろくろ首』などのタイトルが付けられていて、妖怪や怪奇現象を伴う作品で楽しめます。
特に夢と現実の交錯で恐怖を引き出す『むじな』や、その道の「プロ」としての外科医と刑事の尋問の綾が面白い『ろくろ首』、人間の心の弱さを主体に描かれた『鏡と鐘』など、秀逸な味わいで楽しめた一冊でした。
著者の(文春文庫)発行のエッセイ集としては、『こぶしの上のダルマ』 ・ 『からだのままに』 ・ 『トラや』 と発行順に続けて読んできていましたが、その後の3巻を飛ばして本書を手にしました。
本書は一年間を通して新聞に掲載されたエッセイが52編、著者が内科医として勤務している長野県佐久間市近辺の四季を背景に、綴られています。
著者自身が「うつ病」の経験者として自分と「わたし」を見極めながら、生活の中から人間の生き様を見つめる目線は、日常に宿る大切なものをやさしく描いています。
文中の、<青春時代に戻りたい、などと平気で口にできるひとは信じない。若くてみっともななかった時代を忘れてしまえる能力のあるひととは酒を呑めない>など、さりげない一言に共感を覚えながら読み終えました。
著者の著書は、江戸の町を舞台に妖怪(あやかし)や物の怪(もののけ)・幽霊が多く登場、<大江戸あやかし犯科帳>シリーズの 『雷獣びりびり』 や、<もののけ本所深川事件帖>シリーズとして 『オサキと江戸の歌姫』 などを読んできています。
これも<唐傘小風の幽霊事件帖>シリーズの第一作目で、肩に小さなカラスの<八咫烏>を乗せた無愛想な<小風(こかぜ)>という巫女姿の少女の幽霊と、貧乏寺子屋のひ弱な師匠<信吉>と織りなすドタバタ劇が、気軽に楽しめる一冊でした。
まだシリーズ第一作目と言うことで全貌は見えませんが、<小風>から馬鹿師匠と呼ばれる<信吉>が継いだ寺子屋を取り仕切っていた祖母<卯女(うめ)>の存在が気になりながら読み終えましたので、機会があれば第二作目へと読み継ぎたいと考えています。
主人公<風見窓子>は33歳、出世欲もなく後輩の寿退社をうらやむことなく一人娘として実家で暮らしていますが、同居する両親から「干支三回り宣言」をされ、2年以内に(私たちの目にかなった男と)結婚をするようにとの宣告を受けてしまいます。
SNSの世界で知り合った<桂二>と食事に出向いた際、会社の営業統括本部副部長をしている47歳の独身<有磯潮美>と若い男性が食事をしている場面に遭遇、「鬼女」や「荒磯」と呼ばれているやり手が楽しそうな顔を見せているのに驚かされます。
後日その<潮美>からなぜか声を掛けられ、彼女の実家がある下町三ノ輪にある大衆食堂『磯家』に訪れることになり、<潮美>の家族たちとの交流を通して<窓子>の日常生活が突然変化していきます。
晩婚化が進む時代、更年期に悩む47歳の<潮美>と結婚を迫られている33歳<窓子>の交流を通して、家族とは結婚とは何か?を考えさせられる一冊でした。
神奈川県葉崎市の海岸先にある通称「猫島」には、30人ほどの住民と100匹以上の猫がのんびりと暮らしています。
海水浴客がおおくなる夏場だけぷれはぶの臨時派出所ができ、巡査の<七瀬晃>が詰めていますが、相棒は丸顔で目つきに悪いドラ猫<DC(Detective Cat)>です。
個性的な島民と問題のある観光客が引き起こす騒動で、<七瀬>はてんてこ舞いの毎日ですが、<DC>のさりげない行動に手助けされ事件を解決していきます。
四季を通じた9話が連作短篇として納められていますが、未解決の殺人事件などがあり、気になりながら読み進めていますと、ちゃんと結末が用意されており、<DC>の生い立ちも最後にわかるほのぼのとしたミステリー作品が楽しめました。
2007年の春までに、北半球から四分の一の<ミツバチ>が忽然と消えてしまいました。
本書はアメリカで2008年9月に出版された全訳に加え、2009年8月に日本に来日した著者が、当時の農林水産大臣<石破茂>への取材が、書き下ろしとして追加されています。
CCD(蜂群崩壊症候群)と呼ばれる大きな括りで著者は養蜂家や検査所を精力的に取材、<ミツバチ>たちに何が起こっているのかの現状を分析すると共に、<ミツバチ>の生い立ちから現状まで、幅広い目線で分析・報告されています。
生産性を高めるために農場にまかれる農薬の恐ろしさをわかりやすく、そしてそれに対抗するために<ミツバチ>に施される抗生物質の影響等、経済優先社会の怖さを改めて感じながらも、昆虫と植物の連帯関係も良くわかる解説書として、面白く読み終えれました。
蜜葉市の郵便局に勤める25歳の<平本秋宏>は、バイクで郵便物を届ける仕事をしています。
ひとつ違いの兄<春行>は、タレントとして活躍していますが、双子と間違えられるほど顔がよく似ていてますが、性格が落ち着いていますので兄の方だと間違われます。
本書には郵便物にまつわる8篇が連作短篇として組まれ、<秋宏>の目線を通して、日常的に起こる郵便物にまつわる出来事を中心に、住民とほのぼのとした人間関係が味わえる一冊です。
現在はメール全盛時代、82円で確実に届く郵便の素晴らしさを、改めて見なおすべきだと感じながら読み終えました。
喫茶店を舞台に安楽椅子探偵的に謎を解くのは、<岡崎琢磨>のバリスタ<切間美星>を主人公とした、『珈琲店タレーランの事件簿』 がありますが、本書も設定はよく似ています。
横浜元町にほど近い汐汲坂の途中にある喫茶店「カフェ・ルナール」は、24歳の美人店長<望月葛葉>のこだわりの紅茶が飲める店ですが、訪れる客の悩みを訊き、その謎を解くこととして有名でした。
横浜の大学に通うため、伯父<芦屋甚五郎>の紅茶専門店「薫」でアルバイトする<菱川春明>は、<甚五郎>と娘<蜜>も<葛葉>が知り合いだということで、自分の悩みを打ち明けに「カフェ・ルナール」に出向いていきます。
「ルナール」とはフランス語で「狐」と言う意味ですが、嘘か真か自ら「狐」と名乗る<葛葉>に<春明>は魅かれていきます。
なぜか店から出ることのない<葛葉>ですが、聞き及ぶ情報だけで謎を解く連作短篇が4篇納められていて、ウイットの効いたエピローグが印象的でした。
市役所の戸籍係に勤める<三谷恭子>は26歳、子供の頃の原体験により金にも物にも固執しない性格で、相手に対しても何も期待しない生活を送っています。
そんな彼女に、戸籍の売買を生業としているヤクザっぽい34歳の<梶原彰>、21歳の大学生<小倉弘樹>、市役所前の交番に詰めている33歳の<和田警部補>と三人の男が心惹かれ、やがて四角関係が露見、平穏な生活に乱れが生じてきます。
一人になりたいときに公園に出向く彼女は、昔の記憶は確かなのですが新しい記憶は一週間持たない「短期記憶障害」の老人と知り合い、元教授らしき彼から「人の生き方」を学んでいくのでした。
読み始めは<恭子>の生き方に疑問を感じていましたが、元教授の会話を通して「人の生き方」という難題に真っ向から取り込んでいく姿と、ヤクザっぽい<梶原>が「生き方」を変えていく場面は感動ものでした。
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