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学生時代を山岳部で過ごした<笹村雪彦>(28歳)は、2年先輩の<浅川>が勤める松本市の「大崎商事」に就職、会社にある「あすなろ岳友会」に所属しています。
4月後半の日曜日、会社の同僚5人のパーティーで北アルプス登山中、「不帰の嶮」にて足を踏み外し滑落、8月に遺体が発見されます。
49日が過ぎ、ようやく会社の独身寮の荷物の整理をはじめた母<時子>と妹<千春>は、<雪彦>の登山ノートの中に「N子」名義のラブレターを発見、そこには「S」という男との三角関係を匂わす文面が綴られていました。
遭難時の5人のパーティーに参加した2名の女性とも、氏名は別として頭文字「N」が付き、母は<雪彦>の追悼登山に参加しながら真相を究明しようと動きますが、その母も同じ場所から転落して亡くなってしまいます。
<雪彦>からの絵葉書、登山届、現地の地図、死体検案書など登山に関する詳細な資料を挟み込みながらの構成は、登山の部外者にとっても興味ある構成で、残された<千春>の真相追及に思わず力が入る一冊でした。
第1巻の 『八朔の月』 が、文庫書き下ろし作品として刊行されたのが2009年5月18日、前作の9巻目 『美雪晴れ』 に次ぎ、 第10巻目の本書『天の梯』(2014年8月18日刊行)で、<みをつくし料理帖>シリーズは完結になりました。
主人公<澪>は、享和2(1802)年7月1日に発生した淀川の大洪水で両親を失い、8歳のときに料理屋「天満一兆庵」の女将<芳>に引き取られ、主人の<嘉兵衛>は、<澪>の料理への天分を見出します。
大阪の店が焼け<嘉兵衛>をなくした<芳>は<澪>連れ、東京の江戸店を任せていた息子<伊兵衛>の店に来てみれば店は人手に渡り、行方知らずになっていました。
「天満一兆庵」の再建を願う<芳>とともに<澪>は、勝手の違う江戸で女料理人として名を馳せていきます。
想い人である御膳奉行<小松原>との縁談も料理の道のために諦め、洪水で身売りされ、今は吉原の「翁屋」にて<あさひ太夫(野江)>となった幼馴染の身請け金4000両の工面に悩む<澪>でしたが、自分が考案した「鼈甲珠」のレシピを「翁屋」に売ることで<あさひ太夫>の身請けをの解決を図ります。
女が女を身請けしたとなると江戸中で問題になるだろうとということで、<澪>は一計を案じ、札差し<摂津屋助五郎>に協力を求め、<野江>と生まれ育った大阪で暮らすことを決意します。
いつもそばにいて<澪>を見続けていた医者の<源斉>は、ご典医の誘いを断り士分を捨て、大阪に医者の学校を作る夢を語り、<澪>との婚儀を整えて先に大阪に旅立ちます。
<澪>の長年の夢である<あさひ太夫>の吉原の大門からの送り出しの場面では、思わず涙腺が緩んでしまいました。
前作の 『残月』 から間が空きましたが、女料理人<澪>を主人公とし、料理や「つる家」を舞台とする<みをつくし料理帖>も全10巻で完結しており、この『美雪晴れ』で第9巻目になります。
天満一兆庵のご寮さんこと<芳>は、名料理店「一柳」の主人<柳吾>から求婚され、板前<又次>を亡くすなど悲しい出来事がありましたが、「つる家」にとっては朗報で、<芳>の息子<佐兵衛>も快く母を祝福して無事に婚儀が終ります。
<澪>は以前から考えていた幼馴染の<あさひ太夫(野江)>の身請け話を進めるために、自らが考案した「鼈甲珠」を、焼け落ちた吉原の再建工事中の「翁屋」の店先を借りうけて商売を始めます。
<澪>の後釜として、すでに<柳吾>が推薦する板前<政吉>が「つる家」に入り、いつ<澪>が抜けてもいい体制が作られていきますが、女料理人として自らの行く末に苦悶する日々が続くのでした。
読みながら思い浮かべていましたのは、<高野和明>著の 『幽霊人命救助隊』 です。
これは地獄と天国の境目にいる幽霊4名が、自殺志願者を100名助けると、無事に天国にいけるというお話しでした。
この『名のないシシャ』にも、外見は10歳にしか見えない4人の男女の「使者」が登場、それぞれ約3年間分の寿命を延ばせられる力を持ち、使い切ると自らは消滅してしまいます。
外見の10歳の姿はいつもでも変わらず、この世に派遣されて50年以上経つのですが、いまだ命の時間を与える人物に出会わない「名無しの使者」たちも、それぞれ出会った相手から<テクちゃん>、<心美(こころみ)>、<直哉>と名を付けてもらうのですが、一人<黒いネックレスの少年>だけは、人間に対して心を開けることができずにいました。
ひとりの余命を変えることで、これまた誰かの運命を狂わすこともあり、<むやみやたらに人の運命を変えてはいけない>という戒めが、心に残る一冊でした。
乱読派として、本を選ぶ基準はその時その時で違うのですが、今回は著者名の<翠>が本のタイトル『翡翠の封印』に使われているのが気になり読んでみました。
騎馬民族として王国を樹立した「ヴェルマ国」の王子<テオドリアス(テオ)>と、豊かな農地を持つ「レガータ国」の<セシアラ(セラ)>は共に15歳、両国を狙っている「ガトゥール国」に対抗するために政治的な婚姻をさせられますが、(セラ)は神殿で巫女姫として幼いころから働き、人の死を知る力を供えています。
(セラ)は(テオ)の姉<イオーネ>と婚姻のあとに合い、握手をした瞬間に死期が近いことを知り(テオ)に告げますが、それを聞いた(テオ)は怒り心頭、その日から(セラ)と決裂するのですが、誰ともわからない人物に毒矢を打たれた(テオ)を、持ち前の薬草の知識で(セラ)は助け、仲良くなりかけたときに「ガトゥール国」との戦いに出向かなければならなくなってしまいます。
(セラ)が美しい緑の瞳を持つ意味が、物語を読み進むにつれてわかり、ファンタジックな物語として楽しめた「第4回C★NOVELS大賞」(2008年)受賞作品でした。
浮気調査の依頼で女性を尾行中の「たんぽぽ探偵事務所(略してタンタン)」の所長(27歳)<岸翔太>と所員の<鈴木海鈴(マリン)>(19歳)は、馬車道に全裸で現れた女性が倒れて死亡する事件に出会ってしまいます。
全裸のため身元もわからない中、馬車道のお店に聞き込みを行い、その女性と直前までバーで飲んでいた<娘々(にゃんにゃん)好子>にたどり着き、彼女は殺人犯に疑われていることにより、この事件の解決を「タンタン」に依頼します。
調査をはじめると殺された女性は「サイトウ」だとわかり、彼女が親しくしていた<西東司>が麻薬を扱っていたことが徐々に判明、その彼も刺殺死体となって愛人に発見されますが、その愛人<伊藤みひろ>も殺されてしまいます。
ギャグとユーモアのある文体で気楽に読み進めておりましたが、一見この事件も解決かという段階でどんでん返しがあり、「う~ん」と唸らすひねりは面白かったです。
生まれ育ったアラバマ州グレンビィルの町を捨て、歴史家として名を馳せたいという大きな野心をもってハーバード大学に入学した主人公<ルーク>ですが、自分の執筆した本の宣伝のために「自費」でセントルイスの西部開拓博物館に講演に出向きます。
講演会場で20年ぶりに出会ったのは、47歳になった<ローラ・フェイ>で、以前の美しさは消え失せていました。
彼女はかって父<ダグ>の愛人と噂され、<ルーク>は無能な父と共に憎んでいましたが、講演会が終わり宿泊先のホテルのバーで当時の話を語り合うなかで、実際は何もなかったことを知らされます。
<ルーク>の多感な年ごろの父や母に対する心情を主軸として、グレンビィルでの人間関係を横糸に絡ませながら当時の真実が解き明かされ、思わぬ展開を見せてくれる一冊でした。
本書の主人公<片岡真子>は、京都府警に入ってまだ7年目の新人刑事で、警察庁から出向しているキャリア組の<高藤>警部と組まされますが、<片岡>のはんなりとした京都弁が気になる<高藤>です。
元老舗呉服屋<向井>の別邸で若い女性の首つり死体が発見され、遺体の首筋には、首を吊った索条痕と手で絞めた扼殺痕があり、不可解な事件として捜査が始まります。
歯の治療あとから、死体は3年前に家出した長崎市の<夏山千紘>だと判明、引き取りに来た母親との会話で<片岡>は彼女の過去を聞かされます。父親に児童ポルノを作成され、それが原因で自殺未遂を繰り返しながらも、「いのちの110番」の担当者<山本祐一>に心の安寧を見つけ出しますが、介護士をしていた<山本>の妹は15年前に失踪、最後の訪問先が<向井>の別邸で、彼は<向井>を犯人だと信じていました。
二つの事件が交錯、殺人の時効15年(事件当時)が目前に迫り、<向井>に翻弄されながらも真摯に事件に取り組む<片岡>の姿が印象的で、続編を望むキャラクターでした。
<越境捜査>シリーズも、2007年8月に『越境捜査』を1冊目として、2014年3月刊行の本書で4冊目になります。
警視庁捜査一課特命捜査二係の<鷺沼友哉>は、足立区の河川敷の白骨死体の捜査にあたっていましたが、柿の木坂の自宅マンションで暴漢にナイフで襲われ1カ月の自宅療養を命じられます。
彼を見つけたのは神奈川県警瀬谷署の刑事<宮野裕之>で、今まで管轄を超えて捜査協力してきた仲間であり、<宮野>は逮捕した窃盗犯が、12年前に白骨死体が発見された近くの家に忍び込んだとき、死体を見たと自供、関連があるのではと<鷺沼>を訪問した時でした。
その家は現在は参議院議員の<小暮孝則>の自宅で、10年前に更地にして売却した土地で、不審に思った<鷺沼>と<宮野>、そして<鷺沼>の身辺警護に着いた碑文谷警察署の<山中彩香>を巻き込み捜査を進めていきます。
<鷺沼>の部下である新人の<井上拓海>巡査も、<小暮>の身辺捜査のために福岡県警に出向きますが、一人前の刑事の風格を備えはじめ、いい動きを見せてくれていました。
定年まじかの<鷺沼>の上司<三好章>や元ヤクザの<福富>の脇役も見事で、はみ出し刑事の面目躍如の活躍が楽しめました。
本書は、著者の1970年代・1980年代の未収録の短篇集で、16編が収録されています。
表題作の『鳥少年』は、『月刊カドカワ』1083年7月号に掲載された作品で、少年たちに暴行にあった<鳰子>を主人公に据え、少年のひとりがなぜか「クォ~」としか喋れなくなる話です。
一番目に収録されている『火焔樹の下では』は、精神病院を舞台に天才的絵画能力を持つ患者の治療にあたる女医と看護師が、その患者のことを書いた作家との間でやり取りする手紙形式の構成で、怖い「女の執念」が見事にあらわされていました。
どの作品もブラックサスペンスとでもいえる読後感が残る短篇ばかりで、美容院を舞台に美容師と客の女性の一人の男に執着する話しの『魔女』の最後の一行、<孤りの女が深夜、部屋にこもっているとき、どんな力を持つものか、男は知らないのだ>には、特に背筋が寒くなる「女の怨念」を感じました。
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