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著者<若菜晃子>が、1968年兵庫県神戸市生まれだということで、手にしてみましたエッセイ集『街と山のあいだ』(2017年9月刊)です。
学習院大学国文学科卒業後、登山の専門出版社「山と渓谷社」に入社、『wandel』編集長、『山と渓谷』副編集長を経て独立、文筆家として活躍する著者が、山にまつわる記憶や体得してきた思想を、情緒豊かに綴っています。
四季にわたる山行記やよく登る山、道具の話など、細やかなエピソードに彩られた59篇が掲載されています。「人生に、山があってよかった」と山が好きな人も山に憧れる人にも、街に埋もれている人にも自然を感じられる一冊でした。
「人生に、山があってよかった。」と言い切る著者には、山ではどんな景色が見えるのか、何度も登りたくなる理由は何なのか。著者の文章の力で、山の魅力に共感することができます。巻末には、本文に出てくる山名一覧(国内)がまとめられています。
本書の正式なタイトルとしては、『警察庁特命捜査官水野乃亜 モールハンター』になります。
新聞広告を見て、女性捜査官「水野乃亜」が主人公だということで手にしてみましたが、すでに第1巻として『警察庁特命捜査官水野乃亜 ホークアイ』(2019年6月)が刊行されているようで、本文中に第1巻の流れをくんだであろう表現の箇所が多く出てきていました。やはり、シリーズ物は最初から続けて読むのがいいようです。
コロナ禍後、外国人労働者の受け入れ拡大に伴い外国人犯罪も増加傾向にあり、上海マフィア「七合会」を中心とし、日本の半グレ集団との抗争が絶えません。
そんな中、国は隠密に通訳を兼ねて外国人警察官の採用を検討、各国の現役警察官を通訳だとして、組織に採用、法案改正の実績を作ろうと、警察庁キャリアの「水野乃亜」に管理官として着任させますが、留置していた事件の関係者が毒殺されるという事件が発生。
警察上層部は、組織内部に「モール=内通者」がいるということで「水野乃亜」に殺人事件捜査と合わせて、「モール」のあぶり出しを任せます。
現場のノンキャリア刑事たちと、通訳という隠れ蓑の刑事たち、キャリアの「水野乃亜」という三すくみの中での捜査が進みます。事件解決後は、やはり「ホークアイ」で取り逃がした「遠藤美沙」の名が登場、第3巻へと続く伏線が感じ取れました。
著者の作品として発行が後先になっていますが、4作品目の 『その女アレックス』 (2011年)の前に3作目として発行されています『監禁面接』(2010年)が、2021年1月10日に(文春文庫〉として刊行されています。
『その女アレックス』は、面白く楽しめましたので、本作の宣伝コピーに釣られて読んではみたものの、私には3章からなる482ページが、特に第1章が長く感じる作品でした。
リストラにあい失業4年目の「アラン・デランブル」57歳は、再就職の当てもなくアルバイトで妻の「ニコル」頼りに生活をしていましたが、一流企業の最終試験に残ります。それは、「就職先の企業の重役会議を襲撃し、監禁する」状況の中での行動で重役の昇進を決めるという企画に立ち合い、人事評価を行うというものでした。
娘の住宅購入資金を借りてまで、評価対象人物の個人情報収集を探偵に頼み、テロ集団への対処を元警察官に教わり、「アラン」はある奇策をもって、最終面接試験に出向きます。
物語の展開は予想外に進み、<アラン>の一発逆転劇の作戦ににんまりさせられますが、痛快感が最後まで続かず、ハッピーエンド的な終わり方を期待していただけにスカッとした満足感は得られず、退屈冠を感じ高い評価は与えられません。☆☆といったところでしょうか。
兵庫県に関係ある地名ということで、今回は1998年11月に中央公論社にて「273作目」として刊行されています<西村京太郎>の『城崎にて、殺人』です。作品順番として後先になりましたが、「274作目」が、 『東京・松島殺人ルート』 でした。
ミステリー小説ながら、文豪<志賀直哉>の『城崎にて』(1917年5月)をもじったタイトルにも興味がわきました。
警視庁捜査一課を定年退職した「岡田利夫」は、山陰への旅の途中の車内で宝石店に勤める「北野敬」という青年に出会い名刺交換を行い、再会を約束します。翌日、「北野」の死体が城崎温泉で発見され、持っていた名刺から事情聴取を受ける「岡田」の元へかつての後輩、「十津川」警部が現れます。
東京で殺されたクラブママの女性「竹宮麻美」の部屋に、「北野」の名刺が残っていたので事件との関連を調べに来ていました。「岡田」が、別れた後の「北野」の足跡を辿ると、彼から宝石を買おうとしていた地元の名士3人が連続して不審死していたという事実が浮かび上がってきます。
山陰の3県に渡る温泉宿<城崎・三朝・玉造>において連続殺人に秘められた、事件の真相は本来主人公の「十津川」警部が捜査に乗り出すところですが、本書では引退した民間人の「岡田」が事件を追い求め、最後は犯人に殺されてしまう悲しい結末を迎えます。
『薔薇を拒む』 以来、久しぶりに<近藤史恵>(51)の本書『インフルエンス』を手にしました。2017年11月に文藝春秋から単行本が刊行されていますが、2021年1月に同社から文庫本が発行されています。
主たる登場人物は少ないのですが、何とも複雑な人間関係を主軸に扱い、最後に驚くべき結末が用意されていました。同年のファンの「戸塚友梨」から手紙をもらった作家の「私」が、送り主が語る物語を中心に進んでいきます。
大阪郊外の巨大団地で育った小学生の「戸塚友梨」。同じ団地に住む「日野里子」が、小さいころから祖父から性虐待を受けていたことを知り、衝撃を受けます。助けられなかったという自責の念を胸に抱えたまま中学生になった「友梨」は、都会的で美しい親友「真帆」を守ろうとして、脅すために男が持っていた包丁で痴漢の男を刺し殺してしまいます。ところが何故か、翌日警察に逮捕されたのは、「里子」でした。
殺人事件、スクールカースト、子育て、孤独と希望、繋がり。お互いの関係を必死に隠して幼馴染として中学生から高校生と過ごし大人になった3人の女たちが過ごした20年、その入り組んだ秘密の関係の果てに彼女たちの人生に待つものは何だったのか。大人になった三人の人生が交差した時、隠された衝撃の真実が浮かび上がってきます。
女たちが幼いころから直面する性的虐待、いじめ問題の罪、言葉で説明できないあやうい思春期の友人関係と深い信頼。ラストに用意された、作家と「友梨」との関係。 『サクリファイス』 (2008年)で第10回大藪春彦賞を受賞した<近藤史恵>が描く衝撃のミステリーでした。
前作読みました著者の「院内刑事(デカ)」シリーズの 『院内刑事 パンデミック』 も新型コロナウイルスを扱ったタイムリーな内容でしたが、本書『紅旗の陰謀』(2021年1月10日刊・文庫描き下ろし)も、元警視庁公安部出身の経歴をいかんなく発揮した内容でした。
本書『紅旗の陰謀』は、警視庁公安部長の密命を受けた、国際派の若きキャリア公安マン「片野坂彰」を主人公とするシリーズの第3作目になります。
ノンキャリアの最強の先輩情報官「香川潔」と、音大出身で4か国語を操り、コンピューターのスペシャリスト女性捜査官「白澤香葉子」を相棒として、本書より新しく「望月健介」がチームに加わり、家畜泥棒のベトナム人が惨殺された事件を発端に「片野坂彰」は、チャイニーズマフィア傘下の売春組織に目を付け、「片野坂」をチーフとする4人の精鋭チームは、中国の国家ぐるみの陰謀に対峙していきます。
著者の得意分野とする、新型コロナウイルス問題、オリンピック問題。中国・ロシア・トルコ・EU諸国の裏側と国際政治問題の分析が、本筋の事件解決を忘れさすほど、面白く、最後まで一気に読ませるエンターティメントとして注文の付けようがない一冊でした。
著者<藤岡陽子>さん(49)は、本書の文庫本解説によりますと10冊ばかりの著作があるようですが、初めて『手のひらの音符』を読みました。同志社大学文学部卒業後、報知新聞社を経て、タンザニア・ダニエスサラーム大留学、帰国後、法律事務所勤務、結婚を機に、慈恵看護専門学校を卒業し看護師として働きながら小説を書き始めたという特異な経歴が随所に生かされ、人間観察が素晴らしい作品だと感心しました。
デザイナーの「瀬尾水樹」45歳・独身は、勤務している東京の会社が服飾部門から撤退することを知らされます。裁縫好きの子供のころからの夢としてつかんだデザイナーの道でしたが、途方に暮れているときに、中高の同級生「堂林憲吾」から、デザイナーの道を推し進めてくれた恩師「上田」先生が入院したとの連絡を受けます。
今後の針路のこともあり、「水樹」は京都に帰省しますが、幼馴染の「森嶋信也」三兄弟の思い出、特に同級生だった「信也」との懐かしい記憶を甦らせます。
高度成長期前の昭和30年代の社会状況や家族の風景が、文章の合間から広がる中、京都向日町を舞台に「水樹」を中心とした人間関係が見事に描き出された、秀逸の作品でした。
数多くある<西村京太郎>の著作ですので、息抜きの読書といえども選択するのに悩みます。今回は、本書『東京・松嶋殺人ルート』の第1章のタイトル「東京(6月15日)」が目につき、相方の誕生日であるということで手にしました。
東京で初老の男女が相次いで亡くなります。男は交通事故死、女は溺死でした。二人とも亡くなる前に道を尋ねており、「……島」という謎の言葉を残してどこかの島に行こうとしていたらしいことが分かっています。
どちらの衣服にも、本人とは違う血液が衣服に付着しており、殺人事件の関係者ではないかと手がかりを求め「十津川」警部と「亀井」刑事は、投書のあった人物ではないかと秋田の田沢湖へ向かい、さらに宮城の松島へと辿り着きます。
東北観光地開発として事件の背後に浮かび上がる松嶋関連の福浦島を巡る利権争いが大きな焦点となって浮かび上がってきます。最後に、大胆な捜査に打って出た「十津川」に対して、犯人グループとの駆け引きが展開されていきます。
トラベルミステリー作家ということで「列車」がキーワードになることが多いのですが、本書では、「クルーザー」と「海」がキーワーどとして登場しています。
昨年末 『十津川警部の抵抗』 を最後として、何冊か続けて読んでいました<西村京太郎>の再登場です。本作『山形新幹線「つばさ」殺人事件』は、1993年1月「カッパノベルス」として刊行され、1995年12月20日に(光文社文庫)として発売されています。
表題の山形新幹線「つばさ」は、1992年7月1日より運行されていますが、東北方面の観光客の増加を見込んで、当時としていち早く「つばさ」の運行を取り入れた作品となっています。
山形新幹線「つばさ」で東北旅行ヘ向かった若い女性が次々と蒸発しました。囮として、旅行客に扮し単身「つばさ」に乗り込んだ「北条早苗」刑事に近づく謎の男「平沼」と名乗る男が近寄ってきます。しかし、「平沼」は仙山線の踏切で列車と衝突して死亡。運転していた車からは若い女性の右足が見つかります。山形県警が「平沼」犯人説に傾くなか、「十津川」警部は独自の捜査を展開します。
<西村>作品としては、珍しく猟奇的な内容の構成でした。また、「十津川」が、行方不明の女性「井岡和美」が軟禁されていたマンションの風呂場で、殺人犯とみなされていた男の自殺死体を発見後、また同室に戻り、遺言書を見つける当たりの流れが不自然な感じを受けましたが、読み落としがあったのかなと元に戻り精査することなく娯楽小説と割り切りそのまま読み進めました。
最後は、「十津川」警部お得意の犯人あぶり出しの罠仕掛けで一件落着となりますが、山形新幹線「つばさ」は、単に誘拐犯が女性を物色する場に利用されただけに終わり、鉄道ファンとしては少し物足りなさを感じました。
著者自身が現役の石である<南木佳士>の著作は、エッセイ集として、『こぶしの上のダルマ』 ・ 『からだのままに』 ・ 『トラや』 ・ 『いきているかい?』 などを読んできていますが、小説としての作品を読んでいないことを、昨年2月に公開されました<村橋明郎>監督による 『山中静夫氏の尊厳死』 で気づきました。
遅まきながら手にした本書『阿弥陀堂だより』は、1995年6月に単行本が刊行されており、<小泉 堯史>監督により2002年に映画化され、96歳の「おうめ婆さん」役の<北林谷栄>が第26回日本アカデミー賞助演女優賞を、「石野小百合」役の<小西真奈美>が新人俳優賞を、それぞれ受賞しています。
高校の同級生の「神谷美智子」と結婚した「上田孝夫」は文学界の新人賞を受賞したもののその後鳴かず飛ばずの作家業を続けていましたが、医者になった「美智子」は、心の病を患いパニック障害になってしまいます。妻の病気を転機に、「孝夫」は祖母と暮らした生まれ故郷の信州の山奥に移り住み。「美智子」は週3日、村の診療所に勤めることになります。
二人は、自宅奥の山里に、村の故人の霊を祀る古びた「阿弥陀堂」に暮らす96歳の「おうめ婆さん」と知り合い、また肉腫で声が出なくなった難病と闘いながら役場に勤め「おうめ婆さん」の昔話を、「阿弥陀堂だより」として広報誌にまとめている「石野小百合」と知り合うことになります。
「小百合」が重病になり、「美智子」は地元の総合病院の医師と「小百合」の治療に当たり、パニックを起こすことなく、治療に没頭することができるまでに回復していました。
都会とは違う静かな時間の流れる信州の山奥で、「孝夫」と「美智子」は新しい人生の道筋を見つけてゆく様子が、「おうめ婆さん」の生きざまを通して、心地よく響く作品でした。
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