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第6回本屋大賞にも輝いた『告白』(2008年8月刊)で、<湊かなえ>は作家デビューを果たし精力的な執筆活動を続けています。「デビュー10周年記念作品」として書き下ろされたのが、自己最長となる原稿用紙約700枚の大作『未来』です。2018年5月に単行本として刊行され、2021年8月8日文庫本(481ページ)として発売されています。
物語の始まりは未来の自分と名乗る、30歳の主人公「章子」から手紙が送られてくるところから始まります。受け取った「章子」は10歳。その時「章子」は大好きなお父さんを病気で亡くしたばかりでした。手紙には「わたしがあなたに手紙を書く事にしたのは、あなたの未来は、希望に満ちた、暖かいものである事を伝えたかったからです。」と書かれ、10歳の「章子」を励ますような内容になっていました。
「章子」はその手紙が本物の未来からの手紙だと信じ、未来の自分に手紙を届ける術はないので、未来の30歳の「章子」に向けて自分に起こった出来事を手紙に綴っていきます。まだ10代の「章子」には母「文乃」の病状やその後の男関係を含めて重たすぎる出来事が多々起こるのですが、未来の「章子」からきた言葉を信じ今起こっている出来事は全て試練だと捉え、強く生きようとします。
一方、未来の自分から手紙を受け取ったのは「章子」だけではありませんでした。「章子」の同級生の「亜里沙」も未来から手紙を受け取っているのですが、「亜里沙」はそれが本物の手紙でないことに気づきます。
同級生の「章子」と「亜里沙」は、友達と呼べるほど深く関わったことがなかった2人ですが、「章子」のいじめをきっかけに2人の関係性は突然深まります。そして関わってしまったが故に2人は自分たちの家族の「壊れていった真実」を知ってしまい、ある決意をします。
「章子」の強く生きようとする手紙に続き、登場人物たちのそれぞれの家庭環境が、時にはおぞましい内容で語られていくのですが、『未来』という希望を表すはずの言葉なのですが、語られていく内容は「絶望」に近い情況で、結末が気になりながら読み終えてしまう、<湊かなえ>ワールドの集大成にふさわしい内容でした。
『翔んだカップル』(1980年) ・ 『セーラー服と機関銃』(1981年) ・ 『台風クラブ』(1985年) ・ 『ションベン・ライダー』(1983年)などの作品で知られる、映画監督の<相米慎二>の没後20年にあたる2021年(9月9日・53歳没)ですが、監督作品をまとめた、『相米慎二という未来』(2970円)が発行されています。
本書では没後20年たっても色あせない<相米>映画の魅力を、キャストや制作スタッフへのインタビューを通じて描いています。
【邂逅】の章では、<相米>映画をリアルタイムで見ていない若年層に、今回初めて<相米>映画に触れて感じたことを聞きます。
また、かつてリアルタイムで見た世代に改めて<相米>ワールド全作品に触れてもらい、いま感じたことを、唐田えりか、板垣瑞生、村上淳、土井裕泰、松居大悟が語っています。
【回想】の章では、<相米>作品(全13作品)に出演したキャスト(三浦友和、大西結花、河合美智子、斉藤由貴、牧瀬里穂、佐藤浩市、浅野忠信、小泉今日子)らが作品を振り返ります。それは単なる回想に留まらず、「いまに繋げるため」「映像の未来を生きるため」に<相米>作品をとらえ直します。
【証言】の章では、生前の<相米>を支えたスタッフの証言が、佐々木史朗(プロデューサー)のインタビューに、今村治子(記録)、榎戸耕史(助監督)、小川久美子(衣裳)、小川富美夫(美術)、大友良英(音楽)らが語っています。
<堂場瞬一<の本書『宴の前』は、2018年9月に単行本として刊行され、2020年7月20日に文庫本が発売されています。
民自党現職知事76歳の「安川美智夫」は、4期16年を務めて県知事を引退すると表明していましたが、政治路線を託す予定の「白井」副知事への後継者指名をためらっている間に「白井」が急死してしまいい、後継選びは難航します。一方、地元出身の42歳の元五輪メダリストの「中司涼子」が、突然無所属での出馬宣言を行い、〈冬季オリンピック誘致〉を公約に知名度の高さで支持者を伸ばしていきます。
危機感を覚えた「安川」は、民自党議員から候補者を選んでいくのですが、不倫問題や家庭問題でどれも失敗に終わり、最後の秘策として引退を取りやめ、自ら出馬することを決めます。
地元フィクサーや現職知事のスキャンダルを追う新聞記者、利権を争う県民達、各々の忖度や思惑が交錯する熾烈な選挙戦が始まります。
表題の〈宴〉は選挙を意味しており、選挙前の駆け引きを主体として、登場人物たちの「それぞれの事情」を多面的に描いていきます。地元新聞紙の記者「植田」を中心とする新聞社内の動きは、さすが元新聞記者の著者らしく現実感ある内容でした。
本書『神様からひと言』は、<荻原浩>のサラリーマン小説で、2002年10月に光文社より単行本として刊行され、2005年3月に光文社文庫より文庫化されています。
主人公は、大手広告代理店を上司とのもめごとで辞め、「珠川食品」に再就職した「佐倉凉平」27歳です。
入社早々、販売会議でまたもトラブルを起こし、リストラ要員収容所と恐れられる「お客様相談室」へ異動となってしまいます。
慣れない商品のクレーム処理に奔走する「凉平」でしたが。実は、私生活でも半年前に彼女の「リンコ」に逃げられていました。様々なクレーム処理と相談室長とのハードな日々を生きる彼の奮闘が、先輩「篠崎」や個性ある同僚たちとの仕事ぶりを通して平社員としてまた一人の男としての「凉平」の成長がユーモアたっぷりで描かれています。
「会社や仕事なんかのために、死ぬな」、そして「死ぬほどつらいのは、生きてる証拠です」という、著者の「死ぬな」とのメッセージが本作に込められている(442ページ)でした。
『かがみの孤城(上)』に続いて『かがみの孤城(下)』です。
前巻(上)では、鏡の中のお城に集められた不登校の7人が同じ中学校だとわかり、3月期の始まる始業式には、みんなで登校しようというところで終わっていました。
予測できたことですが、始業式に出向いた「こころ」は、誰とも会うことができませんでした。逃げ込んだ保健室の先生は、仲間の名前を言ってみても、「そんな生徒はいない」との返事でした。
改めて鏡の中の城に出向いた時の話し合いで同じ中学校に通っているのですが、パラレルワールドの住人ではないかと妙に納得するメンバーたちでした。
願いが叶う鍵が見つからない中、ある日「こころ」の部屋の鏡が大きな音共に爆発、「アキ」が城の門限の掟を破り、メンバーたちが連帯責任で狼に食べられるという事態が起こり、「アキ」は、狼少女は『赤ずきんちゃん』ではなく『七匹の子やぎ』の方だと気づき、「願いの鍵」をついに見つけるのですが、自分の夢を叶えることなく、「アキ」をはじめメンバーの命を助ける願いを託します。
ネタバレになりますので詳細は省きますが、(上)巻が少し退屈な進み具合でしたが、著者の計算された伏線が見事に散りばめられており、後半の「閉城」の章から「エピローグ」にかけては、「なるほど本屋大賞作品だな」と唸らせる見事な展開で、ミステリーファンタジーともいえる心地よい読後感を残してくれました。
<辻村深月>による本書『かがみの孤城』は、2017年5月に(ポプラ社)により単行本として刊行され、2021年3月5日上下巻2冊として文庫化されています。
文庫本の帯には、2018年度本屋大賞受賞作で、王様のブランチブック大賞など8冠のベストセラーということもあり、また『ツナグ』や『朝が来る』が共に映画化されていることもあって手にしてみました。
同級生の嫌がらせを受け中学校での居場所をなくし、家の自分の部屋に閉じこもっている不登校の中学1年生の「安西こころ」の目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めます。手を伸ばし輝く鏡をくぐり抜けた先は、城のような不思議な建物。そこには、狼の仮面を付けた少女がおり、ちょうど「こころ」と似た境遇の1年生から3年生の7人が集められていました。
城のどこかに隠された「希望の鍵」を学年の終わる3月30日までに見つけ出すと、希望がかなえられるといいます。見つけ出すために城に入れるのは9時から5時という時間制限の決まりがあり、時間を過ぎると大狼に食べられてしまいます。また、願いをかなえた時点で城での記憶がなくなってしまいます。
城に集められた7人は、「こころ」と同じようにそれぞれに問題を抱えた不登校生たちでした。お互いの境遇が分かり、「リオン」以外の6人は同じ中学校に通っていることがわかり、意を決して3学期の始業式にそろって中学校に登校することを約束して、(下)巻へと続きます。
少し大きめのポイントの活字と不登校の問題を扱いながら、童話『赤ずきんちゃん』がらみを感じさせるファンタジーぽい構成で、「んん~」と思いながら411ページの(上)巻を読み終えました。
2017年10月20日に発売されました『誰も語らなかったジブリを語ろう』(東京ニュース通信社刊)は、スタジオジブリについて語った<押井守>のインタビューをまとめた1冊でした。
『風の谷のナウシカ』(1984年・監督:宮﨑駿) ・ 『千と千尋の神隠し』(2001年・監督:宮﨑駿)などの劇場公開作を振り返りつつ、<宮﨑駿>や<高畑勲>、<近藤喜文>、<宮﨑吾朗>、<米林宏昌>といった監督たちについて語り尽くしています。
本書増補版(東京ニュース通信社刊)には、40年にわたって親交を結んできたスタジオジブリのプロデューサー<鈴木敏夫>との往復書簡のほか、『攻殻機動隊』シリーズなどで<押井守>とタッグを組んだプロダクションI.G代表取締役社長の<石川光久>、スタジオジブリなどで長らくプロデューサーを務めてきた<高橋望>との鼎談「監督とプロデューサー オレたちのディスタンス」が新たに収録されています。
映画ライターの<渡辺麻紀>が聞き手となり、文・構成を担当。『映像研には手を出すな!』 ・ 『日本沈没2020』などで知られるアニメーション監督<湯浅政明>がカバーイラストを手がけています。
<下村敦史>の本書『刑事の慟哭』は、2019年9月単行本として刊行され、2021年7月18日に文庫本が発売されています。
新宿署の刑事「田丸茂一」は、捜査本部の方針に反して捜査を進め真犯人を逮捕するのですが、それはキャリアの上層部たちの捜査ミスを、マスコミの前で露見させることになり、厄介者扱いされています。
管内でOL「磯山ゆう子」の絞殺体が発見されましたが、「田村」は捜査の主軸からはずさてしまいます。仕事帰りに寄るバー「麗麗」からの帰宅中に歌舞伎町のホスト「ヨシキ」の刺殺体を発見します。
相棒の「神無木」と捜査を進める中で「田丸」はL「磯山」とホスト「ヨシキ」の二人の思いがけない共通点に気づき、その筋を追うことを会議で提案するも無視され、「神無木」と隠密捜査を進めていきます。
たとえ自分がピエロとなろうとも、犯人を逮捕するという刑事の信念と矜持を持つ男の、孤独な戦いを描いた感動の作品でした。
『寺内貫太郎一家』( 1974年1月16日~1974年10月9日) ・ 『時間ですよ』(1970年~1990年)など人気テレビドラマの脚本家、また、第83回直木賞(1980年)受賞作家として、ますますの活躍が期待されていたさなか、台湾での取材帰りの飛行機事故で1981年8月22日、51年の生涯を終えた<向田邦子>さん(1929年11月28日~1981年)が、没後40年を迎えるこの8月です。
8月10日発売の文春文庫『向田邦子を読む』(文藝春秋編)では、直木賞選評、故<田辺聖子>さん、故<森繁久彌>さん、故<山口瞳>さんら交遊のあった作家・著名人の<向田邦子>さんにまつわる随想がまとめられています。
また、2021年5月30日に亡くなられた<小林亜星>さんと<梶芽衣子>さんの対談「輝ける『寺内貫太郎一家』の日々」のほか、<益田ミリ>さん、<伊藤まさこ>さん、<桜庭一樹>さん、<岸田奈美>さん、<石橋静河>さんら幅広い分野で活躍する人たちからのエッセイを掲載しています。
映画ファンとしては、1989年に<高倉健>主演、<降旗康男>監督で映画化された『あ・うん』や、2003年に<森田芳光> 監督により『阿修羅のごとく』などが映画化されているのが喜ばしいことです。
著者<今野敏>の『残照』(2000年4月刊)に始まる「東京湾臨海署安積班」シリーズの文庫本として、警察学校時代から現在の刑事課強行犯第一係長に至るまでの「安積剛志」を描いた短篇集『道標』に続く12作目の最新作『炎天夢』(2021年7月18日発行)です。
多分野での著作も多い<今野敏>ですが、「安積剛志」警部補を主人公とするこのシリーズは実に巧みに警察組織の上下関係の中での捜査の流れが、個性ある登場人物たちと共に描かれていますので、楽しみなシリーズです。
東京湾臨海署管内で強盗事件が発生しますが、安積の強行犯第一係は、同期の交機隊小隊長「速水直樹」の協力を得て犯人を割り出し、夜明けを待ち家宅捜索を開始、犯人の身柄を確保します。
しかし、徹夜明けの非番となる朝、続けざまに事件が発生、江東マリーナで女性の死体が浮かんだという事件を担当することになります。
被害者は、すぐにグラビアアイドルの「立原彩花」と判明、近くのプレジャーボートで被害者のものと思われるサンダルが見つかります。ボートの持ち主は、「立原彩花」と愛人関係との噂がある芸能界一の大物実力者「柳井武春」でした。
芸能界を取り巻くプロダクションをめぐる問題で、事件を担当する本部長の「白河耕助」が赤坂署長時代に「柳井」の事件をもみ消したという噂がある中、安積班はおなじみの捜査員「須田・黒木・村雨・水野・桜井」たちが、事件の真相を追い求めていきます。
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