- Hashtag "#読書" returned 1794 results.
著者<松井今朝子>の作品として、歌舞伎がらみであることと第四回渡辺淳一文学賞受賞作ということで、本書『芙蓉の干城』を初めて手にしました。単行本は2018年12月に刊行、文庫本として2021年11月25日に発売されています。
舞台は、関東大震災後10年経った日中戦争間近の昭和8年の東京・築地の歌舞伎劇場「木挽座」です。
主人公は、江戸歌舞伎の大作者、三代目「桜木治助」の孫でありながら現在は早稲田大学の教員で、その知識と確かな審美眼で歌舞伎役者や裏方から厚い信頼を集めています「桜木治郎」です。
築地小劇場で女優となった親戚の娘「室井澪子」の婚期を案じる実家からの懇願により、木挽座で陸軍軍人「磯田」との見合いの席が設けられます。舞台では歌舞伎界の大御所である「荻野沢之丞」を観劇中、「澪子」は真向いの席の男女が、酔った感じの姿に違和感を抱きます。
翌日、木挽座そばで男女の惨殺死体が発見されますが、遺体の男は右翼結社「征西会」大幹部「小宮山正憲」であり女は大阪の芸妓「照世美」でした。二人が最後に目撃された木挽座を捜索するため、「治郎」は(前作『壺中の回廊』でも関係した)警察から協力を要請されますが、続けて裏方の二人が連続して殺されてしまい、事件に巻き込まれていきます。
「澪子」もまた、自身が目撃した二人の奇妙な様子を「治郎」と「磯田」に打ち明け、それぞれの立場から事件の真相に迫っていくことになります。
戦争へと歴史の歯車が大きく動いた昭和8年の世相を背景に、歌舞伎業界の豊富な知識に裏付けされた芸の世界を縦軸に、歌舞伎役者の父と息子の葛藤を絡めた、歌舞伎ミステリーでした。
<乃南アサ>は、新潮文庫で50冊を超える作品が発行されていますが、エッセイ的な紀行文は初めてだと思われます『美麗島紀行 つながる台湾』です。
本書は〈ある時代は同じ国民となり、また離れ、それでもよき隣人であり続ける21世紀の台湾を見つめ、書き留めていくと共に、「今に至る」人々の記憶と。かってこの島で生き、暮らした人たちの生き吹をきしていくことを目的〉として編まれています。
美しき、麗しの宝島、台湾。オランダ・スペインの侵略を経て数奇な運命を辿ったこの島に魅了された著者が、丹念に各地を歩き、人々と語り合い、ともに食べ、台湾の素顔を描き出しています。
日本人の親友の妹と結婚した考古学者、日本統治下時代を「懐かしくて悔しくて」と語る古老、零戦乗りを祀る人々。そうした彼らの面影に、著者は日本の統治の50年間の歴史を浮かび上がらせています。
「なぜ、東日本大震災の時に米国を上回る義援金が台湾から贈られたのか」に疑問を持ち、近代史を学んでいない歴史の裏側に埋没されてしまった史実に寄り添いながら、著者ならではの視点で台湾の過去と現在をまとめ上げられた珠玉の紀行エッセイでした。各章の終わりに掲載されている白黒での写真が、文章と合わせて印象に残る構成でした。
副タイトルとして「<ジウ>サーガ9」が付けられています『歌舞伎町ゲノム』です。2019年1月単行本が刊行され、2021年10月25日に文庫本として発行されています本書です。
<ジウ>シリーズ「Ⅰ」・「Ⅱ」・「Ⅲ」の表紙が文庫版新装に伴い既刊が「サーガ」シリーズとしてナンバーリングされています。前回の『国境事変』は<ジウ>シリーズ「Ⅰ」・「Ⅱ」・「Ⅲ」に続く「サーガ4」になっているようです。
本書は、歌舞伎町を舞台に裏社会を描く『歌舞伎町セブン』に始まる「歌舞伎町」シリーズの3作目として、初めて連作短編として5編が収められています。
歌舞伎町でメンバーである元警察官の陣内が、マスターを務めるバー「エポ」に集う「法では裁けぬ悪を始末する」裏仕事人7人が織りなす事件が描かれていきます。犯罪小説でありながら、歌舞伎町ではさもありなんと思わせる世界にのめり込ませてくれます。
今回、欠けたメンバーの代わりに、昼間はお掃除屋さん、裏の顔は死体の処理の専門家「掃除屋シンちゃん」が登場して、他のメンバーよりも存在感を見せていました。
不気味で謎めいた巨大組織「NWO」のジャーナリスト<土屋昭子>との確執も余韻が残り、「歌舞伎町」シリーズはまだまだ続きそうで、楽しみです。
『ホワイトアウト』(1995年)や『ボーダーライン』(1999年)などのミステリーの名手<真保裕一>ということと、港町神戸と同じ横浜が舞台ということで手にした『こちら横浜市港湾局みなと振興課です』です。
本書は、5編からなる連作短編集です。主人公は横浜市の港湾局みなと振興課で働く「船津暁帆」です。ヨコハマ振興のため、舞い込んでくる大量の仕事に忙殺され、猫の手でも借りたい状況の中で、配属された新人「城戸坂泰成」は、国立大学出身のエリートで、英語もこなし様々な難題をパーフェクトにこなす有能な男でした。
第1章は、カンボジアからの研修生が突然失踪する事件や、第2章はフォトコンテストの応募写真を巡る謎、第3章は豪華客船「ダイヤモンド・テレジア号」体験ツアーでの幽霊騒ぎなど、数々のトラブルを、先輩「暁帆」と後輩「城戸坂」の名コンビが解決していきます。
単なる章ごとの読み切りだけかなと思わせながら、そこはミステリーの名手<真保裕一>です。
第1章から第3章の事件を背景に、二人は戦前の港湾における横浜の暗部を探り出してきます。「横浜港 大感謝祭」の開催が近づくなか、「暁帆」と「城戸坂」が辿りつく真実とは。
山下公園前に浮かぶ氷川丸や、象の鼻パーク、コスモワールドの観覧車、外国人居留地――ヨコハマの歴史的名所が登場、隠された歴史の謎を巡る事件と、東京都生まれの「城戸坂」が横浜市に就職した謎と共に、当選したばかりの神村「佐智子横浜市長」や「暁帆」の幼馴染の同期「麻衣子」などの脇役も面白く、港町ならではの船に関する物語が展開していきます。
『スター・ウォーズ』ファン必携の書籍「スター・ウォーズ/ビークル・クロスセクション完全版」が、(世界文化社)から著作<パブロ・ヒダルゴ >・監修<村上 清幸>にて出版されています。
本書は『スター・ウォーズ』のエピソード1から9までだけでなく、スピンオフ作品に登場するビークルを網羅して「内部断面図鑑(クロスセクション)」の完全版として細かく図解されています。
「ミレニアム・ファルコン」、「T-65 Xウイング」、「ゼータ級シャトル」などが映画では描ききれなかった細部まで紹介されています。
広げると見開き50㎝の大判サイズ豪華本で、1つ1つがまるでポスターのような迫力で迫る全264ページです。再度映画を観て、確かめたくなる1冊でした。
文春文庫「紅雲町珈琲屋このみ」シリーズとして第1巻『萩を揺らす雨』(2011年4月)に始まり本書『初夏の訪問者』で8巻目となりました。紅雲町で和食器の販売とコーヒー豆を扱う喫茶店「小蔵屋」を舞台に主人公「杉浦草」の生きざまが描かれています。
梅雨前の5月。「お草」が営む「小蔵屋」の近所の「もり寿司」は、味が落ちたうえ新興宗教や自己啓発セミナーと組んでの商売を始め、近頃評判が悪く、店舗一体型のマンションも空室が目立ち、経営する「森」夫妻は妻「好子」が妊娠中にもかかわらず不仲のようです。その様子を見て、「お草」は自らの短かった「村岡透善」との結婚生活を思い出したりしています。
そんな折、紅雲町に50歳過ぎの男が現れます。新規事業の調査のためといって森マンションに短期で入居している男は親切で、街中で評判になっていました。
その男が、「お草」のもとにやってきます。店の売却・譲渡を求められるのかと思った「お草」に対し、男は自分は「あなたの子供の良一」だ、と名乗ります。
「良一」とは、「お草」が夫や婚家との折り合いが悪く、「お草」が一人で家を出た後、3歳で水の事故で亡くなっています。だがその男によると、じつは「良一」は助け出されたものの、父と後妻の間に子供が生まれて居場所がなくなり、女中で乳母だった「キク」の子として育てられたといいます。その証拠として、お草と別れた夫との間で交わされた手紙や思い出の品を取り出して見せるのでした。
男の言うことは本当なのか、本当に我が子なのか。お草の心は乱れますが、商店街の元警官の私立探偵に「キク」の調査を依頼、「お草」は、嫁ぎ先の米沢まで「キク」に会いに出かけ真相を確かめに出向きます。
今回も、紅雲町のほのぼのとした人間関係を下地に物語はほろ苦くも終わります。おなじみの登場人物たちのはなしも加わり、「お草」の過去が重要な意味合いを持つ本書ですので、ぜひ初めから読んでいただきたいシリーズです。
赤穂浪士の討ち入り関連の書籍は多くあろうかと思いますが、2021年4月15日に文庫本として発行されています『あの日、松の廊下で』です。
討ち入りを主体にするのではなく、その史実の裏側の人間模様を描いた番外編として<竹田真砂子>の『白春』や<葉室麟>の『花や散るらん』がありましたが、本書<白蔵盈太>の『あの日の、松の廊下』も、討ち入りに関して、なぜ<浅野内匠頭>が松の廊下で<吉良上野介>を斬りつけたのかを、「止めてくださるな梶川殿」の台詞で有名なその場に居合わせた大奥御台所付き留守居役の<梶川与惣兵衛>の視点で描いています。
史実に寄り添いながら実に巧みな構成と、江戸城という大組織に勤めるわずか700石の旗本の侍の悲哀を、軽妙な筆致で描いた群像劇的な人間関係の描写で楽しめました。本書は「第3回歴史文藝賞最優秀受賞作」ですが、さもありなんと思える一冊でした。
早いもので落語家<立川談志>さん(1936年1月2日~2011年11月21日・75歳没)が亡くなられてはや10年です。
本書『談志のはなし』(2021年10月18日刊)は、没後10年の企画でもあり、<立川談志>の15番目の弟子として、16年の間前座であった<立川キウイ>の二つ目昇進までの出来事を師匠愛を軸にして綴られています。
「情報を疑え、常識を疑え、地球儀なんぞ信用するな。新聞で正しいのは日付だけだ」。〈最後の名人〉と謳われた<立川談志>の破天荒な活躍は落語界に留まらず、多くの著作や音源で金言・名言、芸論等を遺してきています。
没後十年の節目に、高座などでは分からない「普段の談志」をもっと知って欲しいと前座生活十六年半。弟子の中で一番長く談志と時間を共にした<立川キウイ>だからこそ知る、笑いはもちろんホロリとさせるエピソードが満載のエッセイ集です。
<談志>の師匠<小さん>師匠をはじめ落語家や一門の弟子の登場は当たり前として、<古舘一郎>・<ビートたけし>・<高田文夫>・<ピコ太郎>・<いかりや長介>・<志村けん>・<中村勘三郎>といった大御所や<手塚治虫>・<赤塚不二夫>といった漫画家との裏話、2016年に閉店しています行きつけの「バー美弥」の話題など、意外な一面が垣間見れて楽しめました。
<山田詠美>の本書『つみびと』は、 2010年7月 に発生した 大阪市 西区 の マンション で2児(3歳女児と1歳9ヶ月男児)が母親の 育児放棄 によって 餓死 した「大阪2児餓死事件」をもとにして描かれ、『日本経済新聞』(夕刊)に2018年3月26日~12月25日に掲載され、2019年5月単行本として中央公論新社より単行本が刊行、2021年9月25日に文庫本が発売されています。
厚生労働省では、毎年11月を「児童虐待防止推進月間」と定めていることもあり、おぞましい事件の記憶もあり、手にしてみました。
4歳の男の子「桃太」と3歳の娘「萌音」の2児を放置した死なせた母親「蓮音」を中心として、その母親「琴音」と<小さき者たち>のそれぞれ三様の立場で状況が語られる構成の424ページでした。 「悪いのは子供を餓死させた母親だけなのか」という疑問を、「蓮音」の周囲にいる人物達や家庭環境から浮き上がらせて描いていますが、全てが家庭環境のせいとは言えないだけに、灼熱の夏に幼な子二人をマンションに閉じ込め置き去りにしたのかは、重い内容だけに読み終えて分からないままでした。
事件当事者の母親の裁判は最高裁まで争われ、2013年3月25日に懲役30年が確定して服役しており、物語は、「琴音」と「蓮音」の刑務所にての面会場面で終わります。
<燃え殻>原作のベストセラー小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』(2017年6月30日・新潮社刊)を<高田亮>が脚本を手がけ、<森義仁>が監督デビュー作品として兵庫県神戸市出身の<森山未來>(37)を主演に据えた、『ボクたちはみんな大人になれなかった』が11月5日よりNetflix配信開始と劇場公開に合わせ、より深く作品世界に溶け込めるスピンオフフォトブック『「海行きたいね」と彼女は言った』が発売されています。
描かれるのは主人公ボク=「佐藤」が<伊藤沙莉>演じる恋人「かおり」と過ごした、1996年・横浜でのある一日。
「だいぶ昔のことだからうろ覚えだけど、その日は、なんでか、全部がよかった」
伊勢佐木長者町駅前で待ち合わせ、黄金町の映画館ジャック&ベティに向かったけれど、「鈴木清順特集」は来週からでした。大岡川の川沿い、石川町の坂、古い喫茶店、夕方の山下公園。
お目当ての映画もやっていないし、豪華な一軒家には住めそうにないし、喫茶店のケーキは冷凍だったけれど、「かおり」は「なんか、今日はついてるね」と笑った。
もうどこにもいないあの日の彼女との日々を、書き下ろし脚本と、いま注目の写真家<木村和平>の撮り下ろし写真70点以上で綴っています。
さらに、<燃え殻>による書き下ろしエッセイ2編も収録されています。
- If you are a bloguru member, please login.
Login
- If you are not a bloguru member, you may request a free account here:
Request Account