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前作の『1Q84Book3』から、3年ぶりになる長編小説です。
主人公<多崎つくる>は、名古屋の高校時代にボランティア活動で知りあった仲間<赤松慶><青梅悦夫><白根柚木><黒埜恵理>のと仲良く交際を続けるなか、突如大学2年生の時にグループからのけものにされてしまう過去を背負っています。
何が原因か分からないまま、苦しさを乗り越えなんとか自殺に走ることもなく、無事に東京の大学を卒業、憧れの駅の設計者として東京で暮らし、わだかまりがある名古屋に戻ることもありません。
旅行会社に勤める2歳年上の<木元沙羅>と交際中の<多崎>は、彼女から「まだその時のこだわりが心の中にある」との指摘を受け、16年経た今、かっての仲間に会いに出かける決心をし、真相を求めに名古屋に出向いていきます。
色彩の文字が付く4人の仲間ですが、<多崎>だけは名前に色の文字がありません。絵の具のように、混じり合えば元の色がなくなるように、人間の心の模様も変化するさまの象徴として登場していると考えられますが、学生時代の2学年下の<灰田>や、<沙羅>との関係も中途半端な感じな終わり方で、消化不良が残りました。
文庫本の表紙にも描かれていますが、ブラシ状の小さな白い花を咲かせる「ヒトリシズカ」は、その可憐さから<静御前>になぞらえて名がつけられています。
本編の登場人物として重要な役割を果たす<伊藤静加>の、引きずられてゆく数奇な運命の象徴として、読み進むにつれてタイトルの『ヒトリシズカ』の意味合いが浮きあがってきます。
短篇6篇からなる構成ですが、連作小説として話が引き継がれていき、どのような結末に至るのか、最後まで目が離せませんでした。
住宅街のアパートで、男が押し入ってきた別の男に射殺される事件が発生、現場近くの交番に勤務する巡査<木崎>が現場に急行すると、先輩の<大村>が既に現場にいたところから物語は始まります。
捜査が進むにつれて容疑者が特定されますが、死因の銃痕あとに疑問を感じ釈然としないまま<木崎>は、この事件の捜査から離れるのですが、その裏側では過去に大きな傷を持つ一人の少女の存在があることなど、予測できません。
一人の少女として<伊東静加>は13歳で家出をし、その後16年間に渡る逃亡生活を行いながら、驚くラストの結末まで一気に読ませる一冊でした。
日本橋本石町の米問屋千石屋の一人娘<お奈津>17歳が、体長四尺を超える大きな犬<綺羅々(きらら)>と共に、好奇心旺盛な上に巻き起こす騒動が、四編納められています。
仙台藩士<佐々木織部>との見合いが成り立ち、嫁ぐ寸前まで話が進んでいたさなか、藩のもめごとに巻きこまれ許婚を亡くした過去を持つ<お奈津>です。
父親<千石屋嘉兵衛>の弟<籐五郎>は、「音羽堂」という骨董屋を営んでいますが、兄弟の仲はあまり良くありませんが、<お奈津>はこの叔父を気にいっています。
千石屋手代の<清次>、大目付の息子<有馬龍之介>と脇役も揃い、「音羽堂」に居候し始めた<龍之介>が気にかかる<お奈津>です。
江戸庶民の喜怒哀楽がよく描きこまれており、<龍之介>に淡い恋心が芽生え始めている<お奈津>の今後の関係が気になりながら読み終えました。
2011年5月、東宝系で公開された映画の原作ですが、映画では登場人物の男性・女性を入れ替えたりして、かなりの変更があったようです。
会計検査院の<松平>・<鳥居>・<旭>も3人は、大阪府庁の監査をはじめとして東京から出張してきますが、「社団法人OJO」の監査において、「大阪国」なるパラレルワールドが存在していることを知り、35年間監査が行われず、毎年5億円の補助金は不正なこだとして秘密をあばこうとします。
秘密裏に、秀吉死後400年間守り通してきた秀頼の子孫を守るべく、お好み焼「太閤」の主人であり、大阪国の総理大臣<真田幸一>は、無事に息子<大輔>に大阪国の秘密を伝え、子孫である中学校の同級生<橋場茶子>を守る任務を引き継ぎます。
会計検査院の3人の行動を縦糸に、<大輔>や<茶子>を取り巻く親子の絆を横糸として絡み合い、読み手としてはフィクションだと分かりながら、最後までワクワクしながら読めました。
いやぁ~奇想天外な物語、大阪城周辺を知っているだけに、地理的にも親近感がわき、また作品的にも楽しめました。
1992年1月に刊行された『検屍官』で、華々しいデビューをした主人公検屍官<ケイ・スカーペッタ>シリーズも、『血霧』(2012年12月刊行)で19冊目を数えていますが、その第17作目です。
<ケイ>の姪<ルーシー>が関係していた有名美人投資家<ハンナ>が失踪、時を同じくしてセントラルパークで若い女性<トニー>の遺体が発見されます。
夫の精神科医<ベントン>の所には、元患者<ドディ>からの脅迫めいた手紙が届き、<ケイ>には、送り主不明の爆弾とおもわれる荷物が自宅に届けられます。
<ハンナ>と<トニー>の事件を担当している検事補<バーガー>は、捜査の途中で浮かんできた倒錯趣味のある映画俳優や、<ベントン>がFBI勤務時代に関連した事件が浮かびあがり、事件は混とんとした様相を見せていきます。
シリーズも20年になり、それぞれの登場人物たちもシンクロするように人生を積み重ねてきていている伏線が生かされ、電子機器類の発達にともない捜査の手順も変化してゆくのが読み取れて、楽しめるシリーズです。
2007年第20回小説すばる新人賞を受賞したのが、表題作です。
舞台は豊臣秀吉が天下統一を成し遂げた以後の桃山時代を舞台に、運命的な出会いを果たした若き四人の若者達をめぐる物語です。
天性の踊りの素質を持つ<ちほ>、生きるためにスリや置き引きを続けながら盗んだ三味線を独学で天才的に弾きこなす<籐次郎>、笛吹き職人の息子でありながら、自ら演奏者になるべく家を飛び出した<小平太>、アフリカ生まれの黒人でリズム感あふれる太鼓を叩く<弥助>が、とにもかくにも一座を結成して、演奏と踊りでセンセーションを起こしてゆきます。
秀吉の海外出兵の失敗と、<秀次>との後継者問題という史実を背景に、歴史上の人物たちを織り交ぜながらの構成は、エネルギッシュな文体で飽きることなく爽快感が味わえました。
中国の古典的物語は、『三国志演義』や『水滸伝』・『西遊記』などはお馴染みですが、今回新しい分野の「武侠小説」として、表題作を初めて手にしました。
著者は海寧県出身の香港の小説家で、香港の『明報』とシンガポールの『新明日報』の創刊者でもあります。
『白馬は西風にいななく』・『鴛鴦刀(えんおんとう)』・『越女剣』の三編が収められており、ユーモアと哀感あふれる中短篇集でした。
タイトルになっている『越女剣』は、中国四大美女のひとり、<西施(せいし)>の古典故事「西子捧心」を下敷きに、羊飼いの娘を剣術指南役にした越国が、宿敵呉国を滅ぼすまでを描いています。
また『鴛鴦刀』は、故事来歴の言葉が文中に巧みに出てきて、いかにも中国的な小説だと感じながら、楽しく読み終えました。
没後20年が過ぎ、熊切和嘉監督映画『海炭市叙景』で見直された作家<佐藤泰志>の唯一の長編小説です。
1990年10月、自ら41歳の人生に幕を下ろした著者の作品は絶版になっていましたが、2007年に個人出版社クレインが作品の刊行を行い、映画化が後押しをして、文庫本で出版されています。
芥川賞候補が三回、文學会新人賞・新潮新人賞・三島由紀夫賞の候補に名を挙げながらも、受賞は逃しています。
著者の出身地北海道らしい港町を舞台に、親と子、男と男、男と女の出会いを通して、家族とは人間の愛情とは何かを問いかけ、非常に読みやすい文体で綴られています。
厳しい極寒の中で生き抜く人間の夢と希望を、現実的な目線でまとめあげおり、20年を隔てた作品とは感じませんでした。
第一章、第二章と読み進むにつれて、「なんだこの小説は!!」と目をみはり、時間を忘れて読みふけるほど、興奮度・満足度・刺激度満点の導入部分でした。
世界的に認められた画家でありながら、新潟県のさびれた港町・T町で、戦後から民宿「雪国」を営んでいる<丹生雄武郎>の隠された人生を、一人のジャーナリスト<矢島博美>が明らかにしてゆきます。
民宿「雪国」で起こるバイオレンスに満ちた殺戮の第一章、<矢島博美>がなぜ<丹生>と関わりあったのかの第二章、人格者としての仮面の<丹生>しか知らない元従業員たちの回想録でまとめられた第三章、そして日記やインンタビューから明かされてゆく97年間の真実の第四書へと続きます。
実在のホテル王<横井英樹>やオウム真理教の<麻原彰晃>を元従業員に仕立て上げ、第二次世界大戦の史実と組み合わせながら、「雪国」の意味も深くかかわり、著者はフィクションでありながら、さもノンフィクションかとおもわせる技量で<丹生>の伝記物語を展開させていきます。
今年(90)冊目の読書ですが、これはエンターティンメントとして、200%のおすすめ作品です。
昨年読みました 『暗渠の宿』 の自虐的な文章が強く印象に残っていますが、さらに赤裸々な生活を描いた『焼却炉行き赤ん坊』・『小銭をかぞえる』の2編の小説が収められています。
『焼却炉行き赤ん坊』は、暴力的な態度で女と接してきた主人公が、ようやく見つけた中華料理屋のウエイトレスとの同棲生活の状況を、あくまでも主人公の目線で書き連ね、女と金を巡る退廃的な日常生活を、二人の会話の中で浮き彫りにさらしています。
『小銭をかぞえる』は、主人公が師と仰ぐ作家・故<藤澤淸造>の全集発刊をライフワークと考えていながら、女の実家からの借り入れた300万も使い果たし、印刷会社の支払いに奔走する姿が描かれています。
どちらの作品も粘り気のある重たい文体ながら、行間に哀愁がにじみ出ており、反面おかしさを感じさせてくれるほど悲惨な生きざまが、心に残ります。
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