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2006年にマウスの線維芽細胞から初めてips細胞が生み出され、再生医療に期待されていますが、倫理的な問題が今後どうなるのかは興味があるところです。
主人公<沖田森彦>は、研究助手の<名喜城>の協力で、ゲノムの初期化『P因子』を発見、「ヒト・クローン」の培養に成功し、研究成果を発表する矢先に9歳の一人息子<有基>を事故により亡くします。
密かに<有基>の細胞を採取し、<沖田>は<名喜城>の協力を得て、科学のタブーである「ヒト・クローン」技術を用いて、恋人<奈緒>を眠らせて人工授精により息子を復活させてしまいます。
瓜二つに育つ<透>ですが、時間の経過とともに息子<有基>の死因は事故でないのではとの再度刑事の訪問を受ける中、8年前の協力者<名喜城>が訪れてきます。彼と<透>との会話の中で、<有基>しか知りえないことを<透>がしゃべり始めます。
自分の犯した罪を背負いながら、母親となった<奈緒>や息子<透>の運命は・・・、巧みな伏線を張りながら構成力がしっかりとした作品でした。
第一作目の<安積班シリーズ>『残照』の頃の東京湾臨海警察署は、庁舎はプレハブ造の仮のものであり、日本の警察には存在しない「分署」と呼んだ方がふさわしい建物でしたが、この第7作目の『夕暴雨』にして、ようやく新庁舎が完成しています。
新庁舎に引っ越しを済ませた<安積班>に、東京国際展示場、通称東京ビッグサイトのイベント会場に爆弾を仕掛けたというネット情報が報告され、部下達と警備中に、男子トイレで爆発事故が起こり5人の負傷者を出してしまいます。
臨海署が大きくなったことにより、警視庁より同期の<相楽>が第二係長として就任、また特殊車両課には今では昼行燈と呼ばれている<カミソリ後藤>が配属されてと、組織が複雑化する中で<安積>の人間関係も複雑さを呈していきます。
個性ある<安積班>の部下たち4人の性格も良く描かれており、安心して読めるシリーズです。
<能>の世界には、「シテ」と「ワキ」が存在するのはよく知られていますが、脇役である「ワキ」の存在を、<能>の世界から分析された一冊です。
歌舞伎の世界とは違い<能>は広く世間に門戸を開かれており、著者自身が27歳で「ワキ」を選んでの体験談があるだけに、実に分かりやすい文体で読み進めました。
「ワキ」と「シテ」の掛けあいで<能>は進みますが、それはお互いが異界の存在(あの世・この世)として、「神話的時間」を共有するとともに精神的な安らぎが得られることに尽きるようです。
異界に出会うためには「旅」が必要で、後半は芭蕉や夏目漱石を例に挙げ、<能>の世界観を分かりやすく述べられているのには、引きずり込まれてしまいました。
著者は、女刑事<音道貴子>を主人公にした作品が何点かありますが、今回の主人公は同じ女性でありながら事件捜査には直接関係がない、警務部人事一課調査二係に所属し、警察官の犯罪を捜査する監察官<江尻いくみ>です。
本書には四編の作品が収められていますが、警察官にあるまじき犯罪や汚職に手を染めてしまった、あわれな姿が浮き彫りにされています。
<江尻>は言います。「警察官だって人間だ。規律に縛られた仕事をしていても、制服を脱げば普通の暮らしが待っている>と。
一度不正に手を染めてしまうと、金銭や名誉欲に目がくらむのが人間としての性かもしれませんが、その行為自体を正当だと認める弱さも、これまた人間なのかなと考えさせられる一冊でした。
本巣は、副題に「人生の基本を忘れた日本人」と」ある、曽野綾子さんと金美齢さんの対談集です。
お二人とも、歯に衣を着せぬ論客でしられていますので、面白くないわけがありません。
第一章から第七章迄、現代社会に対するお二人の鋭い風刺が並んでいますが、どれも「もっともだな」という内容で、戦後忘れ去られた日本人としての<矜持>という言葉を、思い出させてくれました。
対談集ですので、内容の紹介は難しいのですが、日本を「わが国」と考えていない人たちが、自分の権利ばかりを主張する社会現象や、世の大勢を覆うのは綺麗事だらけで、綺麗事だけを認めようという社会にたいして警告を与えています。
周りに追従するだけで自分自身の価値観を持たず、事なかれ主義の社会、いまからでも見直すべきです。
青春出版社から、2012年5月に「青春新書」として発行されています。
シリアの化学兵器使用を巡ってきな臭い情勢が中東近辺で起きていますが、そのイスラム圏の国々の現状を知る上で面白く読めました。
イラクによる核開発疑惑も絡み、アメリカをはじめ、欧州・イギリスの政治的介入の裏側がよく理解出来る内容です。
原油産出地域でもあり、イスラム教という宗教が絡み、この先もどのような状況になっていくのか予断を許さず、アメリカなどは国境線を超えた新しい枠組みの国家の青写真を想定しています。
「ガソリンが高くなったなぁ~」の裏側では、政治の駆け引きや民族や宗教の問題が絡んできているのを、忘れてはならないと改めて認識させられました。
タイトルが長いので、発行所が書けませんでしたが、(メディアファクトリー)から出ています。
著者自身が経験した<不思議な体験>が、綴られています。
ノンフイクション作家として有名ですが、「嘘を書かないこと」・「盗作をしないこと」を信条とされていますので、安心しながら読み進めました。
心霊現象的な話しが中心にまとめられていますが、著者自身は「鈍感」な性格だという自己分析のもと、取りつかれたり悩むことなく淡々と文章を進められています。
蒸し暑い夏の読書として、一風の涼を求めたのですが、まったく違う意味で楽しめました。
副題に「風が吹けば桶屋が儲かる殺人事件」とあるように、ひとつの事件がまた別の事件につながり、最後は・・・という筋立てで、登場人物の面白さと合いまり、楽しめるユーモアミステリーです。
主人公は静岡県警本部の美人刑事<黒井マヤ>で、死体が見たいから刑事になったという性格の持ち主です。
浜松市で起こった連続放火殺人事件の捜査の応援で地元警察署に配属され、<代官山脩介>と組み捜査に当たります。
被害者は元ヤクザ、結婚詐欺師、OL、歯医者等、一見何のつながりもない人物達が次々に殺されていきますが、最後にある事件が発端となっていることが分かります。
読みやすい小気味良い文体で書かれており、主人公<マヤ>と<代官山>のコンビの取り合わせも面白く、なかなか途中でやめられない一冊でした。
タイトルに「・・・波」と付く短篇が5編、収められています。
どの短篇も、武家社会の時代の武士としての生き方の悲しみが満ち溢れて、しっとりとした文体で坦々と綴られていますが、悲壮感はあまり感じませんでした。
お家断絶で、赤穂藩士から市井の浪人として仇打ちに加わらなかった父を持つ藤野幸右衛門。
後継者を巡ってお家が分裂した九鬼家や、藩の体面で、偽りの理由で江戸まで出向く下級藩士たちの悩みと生きざまが、それぞれの主人公を通して見事に描かれています。
「・・・波」とタイトルが使われていますが、水軍の覇者としての九鬼家は山奥の三田に配置換えされ、赤穂藩を含め「海」の印象が付いて回り、カエデ・ツツジ・サクラなどの四季の変化が描かれ、自然の中の人間の迷いや悩みなどは小さな出来事だと、対比的に知らしめてくれています。
主人公<ネネコ>さんのご両親も写真家で、父<タタオ>は美しい女性を撮り、母<ミツメ>は山などを歩き回って野生動物の写真を撮る写真家でした。
夫を亡くした<ミツメ>さんは、<ネネコ>さんを育てなければいけませんので出歩いて野生動物の写真撮影を諦め、家の一部を改造してペットと写真が撮れる写真館を開業しました。
下町の商店街のなかで<ネネコ>さんも、母の遺志を継いで動物たちとの関わりの中で、写真を撮り続けています。
猫やライオン、キリン、犬・ツバメ等の動物を中心に、全14話がほのぼのとした飼い主との交流で描かれています。
著者は、<宮崎駿>監督によって映画化された『魔女の宅急便』(1985年)の原作者で、第23回野間児童文芸賞を受賞されており、随所に動物たちに対する優しい目線が感じ取れる短篇集でした。
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