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中学2年生の数学のエキスパート<浜村渚>を主人公に据えた<浜村渚の計算ノート>シリーズも、 『浜村渚の計算ノート 3さつめ』 についで4冊目になりました。
本来のこのシリーズは、数学テロ組織「黒い三角定規」の陰謀を解決する話が、1冊につき4話ほど納められていますが、本書はテロ事件から離れ、数学好きの人間だけが集まる奇妙なリゾートホテル「ホテル・ド・フェルマ」で起きた密室殺人事件の解決に乗り出します。
初めての「文庫書き下ろし作品」としての長編で、全編を通じて<フェルマーの最終定理>や<パスカルの三角形>・<クラインの壺>などの数学的要素がちりばめられ、数学好きの<渚>としては楽しめ、同行した語り部役の刑事=「僕」こと<武藤龍之介>の推理も冴えを見せます。
宿敵の首謀者<高木源一郎>や<霧雨リチャードソン>・<キューティー・オイラー>の逮捕がまだできておらず、このあと2冊が出ていますが、とりあえずここで一区切りです。
日本の教育から「数学」のカリキュラムがなくなったのに憤りを感じた<ドクター・ピタゴラス>こと<高木源一郎>は、数学テロ組織「黒い三角定規」を結成、日本政府に数学教育の復活を求め、日本各地で数々の事件を引き起こしています。
18歳から39歳の年齢対象者は、<高木>の作成した数学プログラムにより教育されてきており、殺人指令を受ける催眠術に洗脳されています。警視庁対策本部はこのプログラムに洗脳されていない刑事たちを集め、数学のエキスパートとして中学2年生の<浜村渚>に応援を求めます。
本書も 『浜村渚の計算ノート 1』 ・ 『浜村渚の計算ノート 2さつめ』 と同様に、数多くの数学者と定理が登場しており、「なるほど」という数学の世界が楽しめました。
特に『「プラトン立体城」殺人事件』の章は、各種の立方体と数式を利用した事件で、建築学的にも面白く、建築設計を生業としている立場として面白く読めました。
前作 『浜村渚の計算ノート 1』 より間が空きましたが、シリーズ物として続巻が3冊出ているのを見つけましたので、続けて読み切ることにしました。
主人公は、警視庁のテロ対策本部に数学の専門家として召集された麻砂第2中学校の2年生<浜村渚>です。
義務教育から数学が外されたことに怒りを覚えた<高木源一郎>こと<ドクターピタゴラス>は、数学テロ組織「黒い三角定規」を立ち上げ、「美しき数学の国」の建設を目指して日本政府に再考を迫ります。
本書も4編の事件が短篇として納められていますが、どれも<浜村渚>の数学の知識を中心に解決されていきます。
本書には、懐かしい「ルービックキューブ」や数字の「7」にまつわる意外性、そして10進法になれた頭を柔らかくしてくれる「2進法」をはじめ「n進法」にまつわる数式が事件を解くカギになっているなど、普段使用していない脳の領域を活性化させてくれる一冊として楽しめました。
主人公南町奉行の同心<尾上源蔵>は、人呼んで「神鳴り源蔵」と呼ばれる切れ者です。
<お清>をはじめ歳の似通った町娘が、武家屋敷に奉公との名目で姿を消してゆくのを不思議に思った<源蔵>の手下の<竜吉>は、仲間の<六助>と娘を乗せた駕籠を追うのですが、見失った上に<六助>までもが消息を絶ってしまいます。
岡っ引きの<文太>共々、<竜吉>は<六助>が消えたであろう武家屋敷を探ってゆく中で、大名川東筑前守の屋敷にて側室の<お千佳>が妊娠、正室側の陰謀で、世継ぎ争いに町娘たちが身代わりとして巻き添えになっていることを知り、正義感よろしく大名家に立ち向かっていきます。
筋書き自体は時代劇によくある世継ぎ騒動ですが、「神鳴り源蔵」の小気味よい行動が、これまた時代小説として楽しめる一冊でした。
何とも不思議な時間軸の流れの中に色々な伏線が埋め込まれているのですが、後半になり一気に花開く感がある一冊でした。
舞台は、東京のとあるビルの地下にある<柳井>がバーテンをしている小さなバーです。
会社に勤めながら漫画家として活躍してる<立石春奈>は毎週火曜日、絵画教室に出向く前にちょっと寄り、56歳で常連の自称早期退職者<炭津(西島)>と飲むのを楽しみにしています。
この<炭津>は実は幽霊で、14年前の交通事故で56歳で亡くなっているのですが、以前から<柳井>は<炭津>が幽霊だと知りながら<春奈>との会話に耳を傾けています。
ある日<春奈>は自分が5歳の頃に起こった札幌の自宅の火事についての推理を、名探偵と推薦する<柳井>の言葉に従い<炭津>に語り始めるのですが・・・。
著者には幽霊のお婆ちゃん探偵が活躍するほのぼのとした 『ハートブレイク・レストランン』 がありますが、本書は学生時代の出来事に端を発し、「復讐」というキーワードが温かく切ない<炭津>の過去が余韻を残すミステリーでした。
女であることを隠し、伊勢崎町の船宿の看板船頭を務める<弥生>は<弥吉>と名乗る19歳です。
江州杜下の大名<来栖家>の孫に当たる彼女は、跡目争いのお家騒動から逃れるために身分を隠し、叔母夫婦が営む船宿『松波屋』に身を寄せています。
この『松波屋』の裏稼業が、金子と引き換えに江戸から姿を消させる「とんずら屋」を営んでおり、主人の<市兵衛>は「仕切り」役で<昌>は「元締め」という立場です。
宿にはわけあって身分を隠した呉服問屋の若旦那<進右衛門>こと<各務丈之進>が長逗留、国元で城代家老を務める父から「江戸にて、仇討を手助けせよ」との密書が届きます。
庶民の人情的な生活と武士の大義という二面性が、「とんずら屋」という稼業を通して鮮やかに描かれている構成で楽しめました。
主人公<水上草介>は20歳で薬草栽培や生薬の精製に携わる小石川御薬園の同心となり、2年が経過しているところから物語は始まります。
のほほんとした性格からまわりの者からは<水草>と呼ばれていますが、人並み外れた草花の知識を持ち、押し葉を趣味とする人物です。
この御薬園は西側は芥川家、東側は岡田家が治めていますが、真ん中を通る仕切り道に沿い東側には「小石川療養所」があり、園内で起こる様々な出来事に<草介>は漢方の処方のように植物を通してもめごと解決していきます。
芥川家には若衆髷に袴姿で剣道に励む男勝りの17歳の娘<千歳>がおり、ふがいない<草介>を後押しして問題を解決する、いい脇役を務めています。
9話の短篇が治められており、花好き植物好きの方にぜひ読んでいただきたい、おすすめの一冊です。
バツイチ女性<エリコ>が中学生の娘<エリコ>を育てながら、三味線の世界にのめり込んでいく 『ぎっちょんちょん』 も面白かったですが、この『いとみち』の主人公<相馬いと>は、祖母の教えのもと三味線のコンンクールで賞を取ったことのある16歳の高校1年生です。
人見知りを治すために<いと>が選んだバイトは、青森市にある「メイドカフェ」ですが、定番の台詞「おかえりなさいませ、ご主人様」が「おがえりなさい、ごスずん様」になるという祖母譲りの伝統的な津軽弁が抜けなく、ドジばかりを繰り返しています。
この祖母<ハツエ>は77歳ながらも、<ヴァン・ヘイレン>なども三味線でこなし、文中の台詞は「〇☆●ДИ・・・」などのように記号で表現され、なかなか個性豊かな脇役でした。
カフェの店長、アルバイトの子連れの<幸子>や漫画家志望の<智美>といった家族的な雰囲気のなか、突然オーナーが薬事法違反で逮捕されてしまいます。
先行きの経営があやふやな中、常連客の銀行員<青木>の算段で融資もうまくいき、リニューアルオープンで、<いと>は『津軽じょんがら節』の演奏を引き受けることになります。
「いとみち」というのは、抑える爪にできる弦の溝のことですが、主人公<いと>の名に通じ、それぞれの登場人物たちとの糸が絡み合うような人生の綾をも表現している表題です。
ゴールデンエッグス社主催のミステリー新人賞を、元人気俳優の<向坂祐一郎>が受賞、200万部を超えるベストセラーになります。
小説家を目指す<岡田平助>は、この<向坂>の小説が、自分が過去に応募し、≪小説家の道≫というサイトに掲載したものと同じで、盗作だと知ります。
見逃すわけにはいかない<平助>は、ゴールデンエッグス社の編集者<泉田>に連絡、調査を依頼するのですが、盗作問題は思わぬ方向に発展していきます。
新人賞を絡む出版業界の裏話を通し、ミステリー作品がミステリーを産むという構成で、結末がどうなるのかと最後まで興味が尽きませんでした。
本書は2011年第144回直木賞の受賞作ですが、著者は2013年の『櫛挽道守』で、今年度の「第9回中央公論文芸賞」・「第27回柴田連三郎賞」・「第8回親鸞賞」を同時受賞しているということで興味を持ちました。
文明開化に踊る明治10年、根津遊郭にある「美仙楼」を舞台として物語は始まります。
武士の次男として生まれた26歳の<定九郎>は、厳格な武士としての教育を受けながら大政奉還により身分を失い、「美仙楼」の<立番>として客引きをしていますが、自分の将来が定まらない中、日々をやり過ごしています。
廓という閉鎖的な社会を舞台に、人気花魁の<小野菊>、噺家の弟子と称する<ポン太>、討伐を志願する賭場の用心棒<中公>など、複雑な人間関係が絡み、明治に始まる「自由・民権」の意識が芽生える社会を背景に、それぞれの人間模様が鮮やかに描かれている作品でした。
特に<美仙楼>を守る「妓夫」<龍造>の、履物の下駄を通しての人間観察眼が素晴らしく、まさに「足元を見る」という言葉がぴったりでした。
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