今年2冊目の読書は、建築設計を生業としていますので、仕事との直接の関係はありませんが、好きな<建築探偵 桜井京介の事件簿>シリーズを選びました。
『未明の家』(1994年4月:講談社ノベルス)を第一作目として、本書で10作目、番外編を除けば本編として8作目に当たります。
栃木県那須に明治時代に建てられた洋館「月映荘」を舞台として、物語は進みます。
過去に「印南家事件」として二人の女性が「月映荘」にて殺害され、未解決事件として時効を迎えようとしています。
<桜井京介>は、この建物調査に関わり、昔の未解決事件に首を突っ込むことになりますが、殺人現場の当時の生き残りの<印南茉莉>の記憶を中心として、屋敷にまつわる女たちの悲しみと苦しみ、涙と血の歴史にはまりこんでいきます。
いつもは冷静な<桜井>ですが、本書では独り舞台的な視線で物語が展開、建築的な時代考証の部分も少なく、一味変わった構成で楽しめました。
2008年も幕開け、お正月には欠かせない風物詩として「百人一首カルタ取り」がありますが、年明けの一冊目として、<高田崇史>の『QED 百人一首の呪』を、今年の読み始めとしました。
正月早々子供4人と秘書2人と食事中に、気分が悪くなった「サカキ・トレーディング」の社長<真榊大陸>は、自室に戻ると途中に幽霊を見たと騒いだ後、自室にて何者かに花瓶で殴られて殺されてしまいます。
<真榊>は『百人一首』の収集家でもあり、死ぬ間際に一枚の札を握りしめていました。
捜査一課の<岩築竹松>は部下の<堂本>と共に捜査に乗り出しますが、犯人を見つけ出すことができないうちに、長女<玉美>が首吊り死体で発見されます。
片や主人公である<桑原崇>は、新聞記者である<小松崎良平>から事件の話しを訊き、ダイイングメッセージともとれる『百人一首』の謎を解くべく、<藤原定家>の秘められた真相を解き明かしていきます。
著者の分身ともいえる博覧強記の<桑原崇>が解き明かす『百人一首』の醍醐味と、殺人事件を平行に描きながら、最後まで興味の尽きないミステリーとして楽しめました。
どこか郊外の町「月船町」の十字路の角にある、ちょっと風変わりな洋食店の暖簾には店名が無く、たまに十字路に起こるつむじ風に因んで「つむじ風食堂」と呼ばれています。
本書は8篇の短篇が連作でつながり、登場人物は、人工降雨を研究している「雨降り先生」こと<私>を中心として、「つむじ風食堂」の無口な店主とお手伝いの<サエコ>、店で飼われている体の左右が黒と白色の猫<オセロ>、そこに集まる帽子屋さんの<桜田>、30歳の売れない舞台女優<奈津子>、星を観にイルクーツクに行きたい果物屋の若者、<私>が「デ・ニーロの親方」と呼んでいる古本屋の店主などが登場、それぞれの人間関係がほのぼのと描かれていました。
なんとなく<宮沢賢治>を彷彿させる語り口に、読後は静かな余韻に浸れる一冊でした。
今年もあとわずかになりましたが、年末年始は寒波の影響でかなり冷えるみたいで、路上生活者の人たちは大丈夫かなと案じてしまいます。
「格差社会」との言葉が定着した感がありますが、解決策としての前向きな姿勢は感じられません。
今年度の神戸市内の路上生活者は、神戸市の調査(8月末)によると147名で、1997年の調査以来、過去最少となっています。
昨年度は170余名でしたので数字上は減少していますが、高齢にて亡くなられた人の割合が気になると共に、「ネットカフェ難民」の若者たちはカウントされず、実情が反映されているとは思えません。
神戸っ子としての私から見て疑問に感じている感じる「神戸ルミナリエ」開催に対して、8000万円を超える寄付金が集まっています。
難病の子供の手術費用の募金にも、多額の寄付金が集まります。大義名分としては、誰も否定できない寄付行為だとおもいますが、いざ足元の路上生活者たちには目がいかないのが現実です。
11月1日付の新聞記事で、甲南女子中学校の3年生が、路上生活者の人達にと、手編みのマフラを送ろうとしているのを知りました。今頃彼らの首回りを、少しでも暖めてくれていればいいなと期待せざるを得ません。
今年10月、路上生活者の人達に仕事を提供することを目的とした。「ビッグイッシュー日本版」の値上げがありました。一冊200円から300円の値上げですが、路上にての販売数の減少がなければいいなと、これまた案じてしまいます。
「偽装」に明け暮れた一年でしたが、人と人との距離だけは、偽りのないものであってほしいと願う年の瀬です。
検視官<スカーペッタ>シリーズ第15作目が本書です。
全米女子テニス界の16歳のスタープレーヤー<ドリュー・マーティン>が、旅行先のローマで殺害され、くりぬかれた眼窩には砂が詰め込まれていました。
<スカーペッタ>は心理学者の<ベントン>と共にローマに飛び、事件の調査に乗り出します。
ローマでは<ベントン>から婚約指輪をもらった<スカーペッタ>ですが、20年来にわたり彼女の仕事を補佐し想いを寄せている<マリーノ>は、交際中の<シャンディ>の陰謀にはまり、<スカーペッタ>の指輪を見て、酔った勢いで彼女に襲い掛かります。
並行して幼い女の子をプールで亡くした<リデイア>が行方不明、前作で登場した精神科医<マリリン・セルフ>と担当医の間で取り交わされたメールから、犯人はもとイラク派遣兵の<ウィル・ランボウ>だとわかりますが、彼は<マリリン>の息子でした。
複雑な親子関係を軸として、フロリダからサウスカロライナのチャールストンに引っ越し周辺環境の違いに戸惑いを隠せない<スカーペッタ>の心情が見事に描かれた一冊でした。
北海道札幌を舞台とする<ススキの探偵>シリーズとして、『探偵はひとりぼっち』 に次ぎ本書が第6作目になります。
馴染のスナックのトラブルを解決した帰り、ヤクザの待ち伏せに合い入院する羽目になった<俺>は、偶然入院先で20年前に別れた15歳年上の<純子>と再会、彼女に頼まれて斗己誕の町に住む元町長の<奥寺>へ手紙を届ける依頼を受けます。
斗己誕の町は、17歳の高校生が金属バット事件を起こし行方不明になった町として有名になった所で、<俺>は取材に来たマスコミ関係者と間違われますが、閉鎖的な田舎の雰囲気に馴染めないなか、<純子>に託された手紙を盗まれてしまいます。
20年前の<純子>との思い出を改装しながら、危険を承知で再度斗己誕の町へ乗り込んでいく<俺>ですが、事件解決の後のほろ苦い結末は、45歳の<俺>に哀愁が漂いホロッとさせられました。
札幌市の「ススキノ」を舞台とする<ススキノ探偵>シリーズの 『向う端にすわった男』 に次ぐ、第5作目が本書です。
自宅マンションの駐車場で、人気者の46歳のオカマ<マサコ>が、滅多打ちにされて殺されましたが、なぜか警察の捜査は遅々として進みません。
<マサコ>と友人だった<俺>は、義憤に駆られて調査を始めますと、地元出身の60歳の代議士<橡脇巌蔵>の名が浮かび、若い頃<マサコ>と愛人関係にあった噂を耳にします。
調査を進めていくなか、正体不明の男たちに襲われたり、金の匂いを嗅ぎつけた怪しげな<堤芳信>などが登場、見張られている自宅に帰れない<俺>は、ホテルやサウナを転々としながらも核心に迫っていきます。
ホモの世界や政治の裏側でうごめく裏の世界を横糸に、30歳を過ぎた<俺>の心情が軽快に展開、恋人の中学校の教師<安西春子>との関係もどうなるのかと、次巻に引き継ぐ形で本書は終わっています。
今多コンツェルン会長の娘と結婚した<杉村三郎>は、勤めていた出版社を辞め会社の広報室に勤務、のんびりと職務を追行していました。
会長(義父)の運転手を11年間務めていた65歳の<梶田信夫>が、縁のないマンションの玄関先で自転車事故に遭い亡くなりますが、残された32歳の<聡子>と22歳の<梨子>は、なかなか目撃者が出てこない現状を打破しようと考え、父<梶田>の歩んできた人生をまとめる自伝の発行を会長に相談、<杉村>はその担当に指名されてしまいます。
一見何気ない寡黙な運転手<梶田>の人生を辿り始める<杉村>ですが、事件は思わぬ方向へと舵を取り始めます。
<梶田>の隠された過去を主軸に、二人姉妹の<聡子>と<梨子>の確執を絡めながら、小さな子供の心の中に潜む家庭環境の怖さを感じてしまうミステリーでした。
「旗師」とは、店舗を構えずに顧客と顧客の売買で利鞘を稼ぐ古物商のことですが、主人公<宇佐美陶子>もその一人で『冬狐堂』という屋号で商売をしています。
本書は<旗師・冬狐堂>シリーズとして 『狐罠』 ・ 『狐闇』 に次ぐ第3作目で、4篇の中短篇が納められていますが、どの作品も奥深い古美術業界の知識が散りばめられており、著者の博識に驚かされると共に、モノづくりの作家としての執念を感じながら読み終えました。
萩焼に取りつかれた作家にまつわる、<宇佐美>の師ともいえる人物が登場する『陶鬼』、古墳等の埋葬品を、無許可で掘り出す「堀り師」と呼ばれる男が主体の『永久の笑み』、染色剤に自分の血を注ぎ込んでまで緋色にこだわり続ける作家を扱った表題作の『緋友禅』、生涯に12万体を彫ったと言われる<円空>の仏像に関わる贋作にまつわる殺人事件を解決する『奇縁円空』と、どの作品も騙し合いと駆け引きが横行する骨董業界を舞台に、美麗の一匹狼としての<宇佐美>の活躍が楽しめる一冊です。
店舗を構えず、自分の鑑定眼だけを頼りに骨董品を扱う<冬狐堂>という屋号の「旗師」<宇佐美陶子>を主人公に据え、骨董業界や美術の世界を舞台に繰り広げられる人間の「美」へのあくなき探求心を見事に描いた作品でした。
プロを騙す「目利き殺し」に「橘薫堂」の主人<橘秀曳>に見事に引っかかった<宇佐美>は、意趣返しとして<橘>に罠を仕掛けるために、別れた夫<プロフェッサーD>の伝手を頼り、贋作師<潮見老人>に仕事を依頼します。
かたや「橘薫堂」の外商を担当する<田倉俊子>が殺されて、スーツケースに詰め込まれた状態で発見、<俊子>のメモに<宇佐美>のことが残されていて、癖のある<根岸>と若手<四阿>両刑事の訪問を受けることになります。
古美術業界の欲望と打算の渦巻く世界を舞台に、横浜で起こった30年前の贋作事件「虎松事件」を絡め、<橘秀曳>を贋作ではめようとする<宇佐美>と、<俊子>殺しの捜査を交錯させながらミステリーとしての伏線を散りばめ、読者を最後の思わぬ結末まで引き付ける秀逸な一冊でした。
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