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タイトルだけを見ますと、なんとなく恋愛物の小説かとおもえますが、まったく違う軽快な9話からなる短篇集です。
それぞれの短篇に主人公として登場してくる女性たちは、40歳を超えた「アラフォー」と呼ばれる世代です。
平凡な主婦、離婚した女性、中間管理職として頑張る会社員、40歳を超えてできちゃった婚の女性、政治家の愛人、家出した過去を持つ売れっ子の漫画家等、様々な過去を背負った女性たちが繰り広げる紆余曲折の人生物語が詰まっています。
最近では作家名だけで男か女か分からなく、読みながら見事な女心の目線を感じ、「まさか女性作家?」と考えました。
奇しくも解説者の大島真寿美氏も、「山本幸久って本当に男なの!?」の一行から解説文を始められていましたので、妙に安心しました。
「愛」という言葉は男女間だけではなく、家族や近隣の人たち、仕事の同僚等、幅広い範囲に存在していることを、改めて感じさせてくれた一冊です。
書物を読んで感動するのは、まずミステリーファンとしては緻密な構成と登場人物の個性に負うところが大きいとおもいます。
また博識な知識が、宝石のようにあちらこちらに光る文体も、これまた感動を覚えますが、この一冊は正に後者の一冊でした。
江戸の片隅に、恵まれない育ちを背負いながら、それぞれが自立するために手に職を持つ女たちを主人公にした、七篇からなる短篇集です。
『竹夫人』は三味線の師匠として生きる<澄(すみ)>、『三冬三春』は絵師として生きる<阿仁>、『夏雨草』は根付け作りに情熱を傾ける<ふさ>、『秋草風』は糸の染色に生きる<萌>、『細小群竹』は髪結いの見習いの<すず>、『逍遥の季節』では踊りの<藤枝>と生け花の<紗代乃>の葛藤等、その世界で生きる女たちの心の憧憬を見事に描き切っています。
パソコンも携帯電話もない時代に生きる、「男と女」・「親と子」・「師匠と弟子」の人情味あふれる生き様が、爽やかさを残してくれる一冊でした。
副題に「親鸞聖人の生涯」とありますように、浄土真宗の宗祖親鸞の姿を描いています。
昨年1月、<聖人七百五十回大遠忌>を無事円成していますが、親鸞は(新暦)の1173年5月21日に生まれ、1263年1月16日に90歳で亡くなっています。
9歳で得度、比叡山延暦寺で天台宗の堂僧として20年間の修業を積みますが「自力」での悟りの修業に疑問を感じ、専修念仏を説く法然に弟子入りをします。
天皇と鎌倉幕府の不安定な時代の中、法然は四国に親鸞は新潟にと流刑になりますがその後赦免され、関東方面の活動に精力を傾け門徒を増やし、63歳の時に生まれ故郷である京都に戻り、集大成として数々の文書を書き残す作業に没頭してゆきます。
親鸞のことだけでなく、師としての法然の生きざまもわかり、また釈迦のたとえ話も挿入され、以前にひろさちや氏の 『釈迦物語』 を読んでいますので、乱読が役に立ちよく理解できました。
宗教用語も多用されていますが、著者自身が浄土真宗の門徒ということもあり、分かりやすい文章でまとめられています。
表紙を見て「これは」と感じましたら、やはり阪神・淡路大震災を扱ったミステリーでした。
何回となく見てきています、大震災の爪跡が残るメリケンパークに当時のままの姿で保存されている岸壁のイラストでした。
主人公の<メイ>は、大震災で婚約者の<由紀夫>を亡くしますが、実家のある東京でお見合いをして外科医の<達也>と結婚、夫の転勤に伴い芦屋に引っ越しています。
実父の病気見舞いのため、五日ほど家を留守にするのですが、帰宅してから<達也>のしぐさや行動が依然と違うことに悩まされます。この辺りは、女性作家ならではの感性だと感じました。
懇意にしている宗教家の教祖<奈津美>の占いによると、身の回りに「桃色の影」が見えるとのお告げを受けますが、<メイ>には意味が分かりません。
そんな折、<メイ>の昔の同僚が絞殺される事件が起こり、<達也>が犯人として警察に逮捕されてしまいます。
神戸を舞台に、「記憶の喪失と愛の再生」を主題にしたミステリー、面白く読み終えました。
それにしても、以前にも大震災の神戸を舞台とした 『ピンクの雨』(新野彰子) がありましたが、なんだか<桃色>づいている神戸のようです。
今年も雑多に読んできていますが、これは特筆すべき出来ばえの国際経済小説です。
いつもですと読後感を書くためにメモを取りながら読んでいますが、今回は上下2冊と分量がありながら、手を止めるのも憚るほど熱中して一気に読んでしまえる内容でした。
主人公の<真理戸潤>は日本長期債権銀行のナノイ事務所の所長として、ベトナムの発電工事受注のメインバンクとして入札に参加するのですが、背景には香港やタイ、フィリピンといったアジア経済の不安定な背景が待ち構えています。
タイトルの『アジアの隼』は、香港に実在した証券会社<ペレグリン>の別名で、急速にマーケットを拡大・崩壊してゆく様が<真理戸>の行動と共にリアルに描かれています。
単に経済小説にとどまらず、ベトナムという国の現状や国民性等が見事に描かれていて、「ドイモイ政策」に狂喜乱舞した時代を知る上でも、貴重な一冊だです。
余談ですがハノイでは、払い下げられた神戸市営バスが、空港バスとして利用されているのは知りませんでした。
北朝鮮問題では「コリア・レポート」の編集長として、テレビ・ラジオなどの解説者として良く登場している著者です。
昨今のパナソニックやシャープの業績の不振、韓国との竹島問題や中国・台湾との尖閣諸島の領土問題等が取りざたされているなか、第三者の立場からどのような目線で日本を見ているのか興味を持って読んでみました。
「日本はすでに、アジアのリーダーではない」という悲観的な日本人が増えてきている現状に著者は驚き、客観的に見て、日本は依然として「アジアのリーダー」であると説いています。
一見日本人への讃歌のように思える部分もありますが、韓国と日本との文化的な違い、国民性の違い等を対比させながら、世界の中における日本分析を論じている一冊でした。
サブタイトルとして<浮世絵宗次日月抄>とあり、シリーズ5冊目になります。
浮世絵師として評判の高い<宗次>が住む貧乏長屋に、生き倒れの女<冬>が担ぎ込まれた場面から物語は始まり、前後して「室邦屋」に押し込み強盗が入り主人ばかりでなく奉公人共々惨殺された事件が起こります。
<宗次>はなんとか一命を取り留めた老女から強盗の人相を探り出すのですが、その特徴は寺で子供たち相手に塾を開いている男のように思われるのですが、年老いた母と二人暮らしの親孝行の人物にしか見えません。
<冬>が体力を回復する中、次々と押し込み強盗の犯人と思える輩から何回も命を狙われる<宗次>ですが、今は亡き大剣豪を養父に持つ「揚真流」の使い手であることから、怪我はすれども事なきを得ながら、事件の真相に迫っていきます。
自分の隠された身分を背負いながら、浮世絵師として市井に生き、人情味あふれる長屋の住民との生活などもほのぼのと描かれており、楽しめる一冊でした。
<明里(あかり>が小学生の夏休みに、母の交通事故のため一ヶ月だけ預けられたおばあちゃんの家は、「ヘヤーサロン由井」という美容院でした。
当時は賑やかだった商店街も、今はシャッター通になり人の通りもなくさびれています。
おばあちゃんと同じ美容師として働いてきた<明里>も28歳になり、失恋の痛手から逃げ出そうとして、偶然にもおばあちゃんの家が貸家に出ているのを知り、引っ越してきます。
斜め向かいには時計店があり、同い年の<飯田秀司(シュウ)>が独立時計師を目指し、元はおじいちゃんのお店だったのを引き継いでいました。
お店の看板には<思い出の時 修理します>とあり、時計の「計」がなぜか抜けているのですが、そのままにしている<シュウ>です。
時間を遡る物語は、『タイムトンネル』や『バックトゥーザフィチャー』などがありますが、<過去は変えられない。でも、修復することはできる>という物語が、連作短篇形式でまとめられています。
もしもあのとき、と考えることは多々あるとおもいますが、その連続の上に今の自分があり時間が流れているのだと分かる、心を癒してくれるくれる一冊でした。
前作の 『研修医純情物語』 に続く、著者2冊目の研修医の苦闘の物語です。
おそらくは著者自身の実体験の基づかれているとおもいますが、大学病院の裏事情を垣間見てしまうと、こんな病院には入院したくない気持ちがわいてきてしまいます。
相も変わらぬ教授を先頭とした担当医を引き連れての無駄な回診や、パソコン画面のみに頼り聴診器も当てない医師、患者とのコミュニケーションよりも自分の権力を誇示するのに必死な世間知らずの医師等、37歳にして研修医として大学病院に勤める主人公<佑太>の現状に、共感を覚えざるを得ません。
著者自身が一般社会で働いてきた経験がある脱サラ組だけに、医局といういびつな閉鎖社会がおかしいことに気づく目線が常に保たれ、研修医の葛藤がよく出ている一冊でした。
ワイオミング州ララミーで、中国系アメリカ人の女子大生が強姦されて殺害されますが、すぐに犯罪歴のある兄弟が逮捕されます。
現場には兄弟の犯行を裏付ける証拠が十分にあり、マスコミをはじめ誰もが兄弟の死刑判決は確実だろうと予測していました。
おりしも州特別捜査官の<バーンズ>は、転落死した女性クライマーの事件の調査でララミーに訪れます。
以前はこの地で過ごし、麻薬取締のおとり捜査中に三人の密売人を射殺したことにより、自らも裁判を受ける身であり、地元保安官や密売人の家族からも嫌がらせを受ける中、転落事故の真相に迫ってゆきます。
捜査とともに兄弟の強姦殺害事件を取り仕切る検事の息子が容疑者と浮かび上がり、次期ワイオミング州知事候補者の父親の根回しなどで、捜査に支障をきたしながらも、真相解決に突き進んでゆきます。
著者自身もロッククライミングが趣味とあるだけに、クライミング時の描写は迫力があり、サスペンス十分の一冊でした。
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